ISSN  1348-9798
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独立行政法人
森林総合研究所
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第124号
平成16年5月31日発行
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カビを利用して松くい虫を防除

マツ材線虫病の防除法と天敵微生物ボーベリア
  日本のマツ林の最も深刻な問題、マツ材線虫病を防ぐために、病原体である線虫を媒介するマツノマダラカミキリという昆虫を化学殺虫剤で殺すことが主に行われています(写真1)。私たちは化学薬剤の使用をできるだけ軽減する防除方法を研究する中で、昆虫に寄生するカビの一種であるボーベリア・バッシアーナ(Beauveria bassiana、写真2)という菌が有望であることを発見し、マツノマダラカミキリにとくに強い殺虫力を持つ菌株を選抜しました。

写真1 枯死木の駆除作業
写真1. 枯死木の駆除作業。中に生息するマツノマダラ
カミキリを薬剤による燻蒸(くんじょう)で殺す。

写真2 胞子を形成しつつあるボーベリア・バッシアーナ
写真2. 胞子(分生子)を形成しつつあるボーベリア・
バッシアーナ。胞子を形成する細胞からジグ
ザグにのびる枝が特徴。  棒線=1Oμm。

幼虫防除への利用
  カミキリの幼虫はこの菌の胞子に接触して感染しますが、枯木の樹皮外から単に胞子を散布しても中に潜む幼虫は簡単には死にません。幼虫は樹皮の下にいるので、胞子に触れる機会が少ないからです。そこで菌の培養基材(不織布)ごと枯木の上に置き(写真3)、常に大量の胞子が樹皮下に流れ込むようにしてやると、高い殺虫率が得られます(写真4)。
  その使用時期は、マツが枯れてから早いほど有効でした。それは幼虫が大きくなると抵抗力が高まるのと、幼虫が越冬のため材内に潜るので、菌に接触しにくくなるためです。

写真3 ボーベリア・バッシアーナを培養した不織布枯死木に貼り付けて中に生息する幼虫に感染させる
写真3. ボーベリア・バッシアーナを培養した不織布を枯死
木に貼り付けて中に生息する幼虫に感染させる。


写真4 樹皮下でボーベリア・バッシアーナに感染して死亡したマツノマダラカミキリ幼虫
写真4. 樹皮下でボーベリア・バッシアーナに感染
して死亡したマツノマダラカミキリ幼虫。

成虫防除への利用
  マツノマダラカミキリ成虫は、幼虫に比べボーベリアに対する抵抗力が強く、死亡までに時間がかかるため、今まではこの菌で防除するのは困難と考えられてきました。しかし、幼虫防除に利用するのと同じ不織布培養物に、羽化脱出してくる成虫を直接接触させるように工夫をすると(写真5)、2週間以内にほとんどを殺虫できることが分かり(写真6)、現在、成虫防除への利用法の研究も進めています。

写真5ボーベリア・バッシアーナを培養した不織布を成虫羽化直前に枯死木に施用。
写真5. ボーベリア・バッシアーナを培養した不織布を成虫羽化直前に
枯死木に施用、シートをかけると、羽化成虫は明るい方向に歩く
ため不織布上を歩いて感染する。

写真6 不織布に培養したボーベリア・バッシアーナへの接触で感染死亡したマツノマダラカミキリ成虫
写真6.  不織布に培養したボーベリア・バッシアーナヘの
接触で感染死亡したマツノマダラカミキリ成虫。


  この菌を野外で実用的に使用するには農薬登録が必要です。現在、メーカー、大学、都道府県の研究機関と共同のプロジェクト研究で、登録に向けて必要な試験と実用化できる条件の検討を行っています。これが実用化できれば、適切な予防散布との併用で松くい虫駆除に使われている化学農薬使用量を軽減する一助となることが期待できます。  
〈実行課題〉ウア2a

  マツノマダラカミキリ生存率制御技術の開発

  島津光明、前原紀敏(森林昆虫研究領域)、

  後藤忠男(東北支所)、佐藤大樹(九州支所)
研究の“森”からNo.124号 平成16年5月31日発行
  編集・発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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