ISSN  1348-9798
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独立行政法人
森林総合研究所
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第129号
平成16年12月28日発行
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増え続けるスギの花粉アレルゲン情報
−新規アレルゲンの探索に向けて−

日本の花粉症
  日本で最初に報告された花粉症は、1961年のブタクサ花粉症です。1964年には、日光市の住民にスギ花粉症が初めて報告されました。その後、花粉症の発症率は全国的に増加し、現在では国民の10%をかなり上回り、しかも発症年齢の低年齢化が進んでいます。花粉症の原因となる植物として、スギ、ヒノキ、ブタクサ、ヨモギ、カナムグラ、カモガヤなど50種類以上が知られています。このうち、大きな社会問題となっているのがスギ・ヒノキ花粉症です。

スギ花粉症の発症機構
  花粉症を引き起こす原因物質が花粉アレルゲンです。スギ花粉が鼻や目に入り、粘膜に付着すると花粉が割れ、花粉アレルゲンが体内に吸収されます(図1)。生体内に侵入したアレルゲンはマクロファージに異物として認識され、その後一連の抗原抗体反応が続き、最終的に肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質が放出されます。これらの化学物質が鼻の神経を刺激し、くしゃみや鼻水、鼻づまりなどの症状を引き起こすのです。

図1 スギ花粉症の発症機構
図1.スギ花粉症の発症機構
図2 スギの雄花と雌花
図2.スギの雄花と雌花
スギの花粉形成
  スギが花を咲かせ花粉を飛ばすまでには、通常20〜30年かかります。スギは雌雄同株で、一つの個体に雄花と雌花をつけます(図2)。花芽の分化時期は6月下旬〜8月下旬で、年内に雄花に花粉が形成します。成熟した花粉の大きさは約32μmで、厚い外壁と薄い内壁に包まれ、円形で小さな突起を持ちます(図3)。雄花や花粉の生産量は、雄花の分化が開始する7月の気象条件に強い影響を受け、晴天の日が続き、気温が高いと増加しますが、降水量が多いと減少します。今年の夏のように、空梅雨で猛暑が続くと、翌春には大量の花粉が飛ぶことになります。
    図3 スギの花粉
     図3.スギの花粉
      A. 光学顕微鏡写真   B.走査電子顕微鏡写真
図4 スギにおける花粉アレルゲン遺伝子の発現
図4.スギにおける花粉アレルゲン遺伝子の発現
スギの主要な花粉アレルゲン
  スギの主要な花粉アレルゲンとして、2種類のタンパク質(Cry j 1、Cry j 2)が報告されています。そこで、2種類の花粉アレルゲン遺伝子を単離し、それらの塩基配列を解析し、遺伝子の発現特性を調べました。スギの花粉アレルゲン遺伝子の配列は、セコイヤ、ヒノキやビャクシン等のスギ科やヒノキ科内の樹種ではよく類似していますが、マツ科のものとはかなり異なっていました。この結果により、スギ花粉症患者がヒノキ花粉にも鋭敏に反応するという現象を説明できます。これら遺伝子は花粉で大量に発現し、成熟した雄花でも検出されました(図4)。Cry j 1はペクテートリアーゼ活性を、Cry j 2はポリメチルガラクツロナーゼ活性を持っています(表1)。2種類の花粉アレルゲンは多糖類分解酵素で、花粉の発芽や花粉管の伸長に機能していると推定できます。人間にとって厄介者でも、スギにとっては子孫を残すために重要な役割を果たしています。

表1.スギ、ヒノキ、ビャクシンの花粉アレルゲンの特性

スギ ヒノキ ビャクシン アレルゲンの特性

Cry j 1 Cha o 1 Jun a 1 ペクテートリアーゼ
Cry j 2 Cha o 2 Jun a 2 ポリメチルガラクツロナーゼ
Cry j 3  − Jun a 3 感染特異的タンパク質
CJP-6  −  − イソフラボン還元酵素


新たな花粉アレルゲンの探索
  北米のビャクシン花粉症では、第3の花粉アレルゲンとしてJun a 3が報告されています。そこで、Jun a 3に相当するスギのアレルゲンCry j 3遺伝子を探索したところ、6種類の遺伝子(Cry j 3.1〜Cry j 3.6)を単離しました。このうち、Cry j 3.5遺伝子の花粉での発現レベルが高いことを明らかにしました(図4)。Cry j 3の実体は感染特異的タンパク質で、アレルゲンとして働くことも明らかになってきました。一方、スギの新規アレルゲンとして、イソフラボン還元酵素(CJP-6)も報告されています。しかし、スギにおけるこれらタンパク質の役割は未だ未解明のままです。
  森林総合研究所では、スギの花粉形成機構を解明するため、雄花や花粉で発現している遺伝子を大規模に解析しています。これらの中には、新規のアレルゲン遺伝子が存在する可能性があり、今後解析が進むとスギの花粉アレルゲン情報が益々増えるでしょう。

花粉アレルゲン遺伝子の利用
  単離した花粉アレルゲン遺伝子は、遺伝子組換え技術により、花粉でアレルゲンを作らない組換えスギの創出に利用できます。また、安全なペプチド療法やDNAワクチンの開発、新たな機能性食品の開発にも利用されることが期待されます。

 <実行課題> コイ 1 a
   形態形成等成長・分化の特性解明と関連遺伝子の
   単離及び機能解明

   篠原健司・二村典宏・伊ヶ崎知弘(生物工学研究領域)

 研究の“森”から 第129号 平成16年12月28日発行
 編集発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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