ISSN  1348-9798
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独立行政法人
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル 研森イメージ
第130号
平成17年2月4日発行
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森林と水との関わり
−岡山市竜の口山量水試験地での観測から−

写真 量水観測施設
写真  量水観測施設(南谷)
(渓流に量水堰を設け、そこを流れ出る水の
高さを測定することにより、流出量を測定する)
  森林総合研究所は、森林が河川の流出量に及ぼす影響を明らかにするための観測施設を日本各地に展開しています。岡山市にある竜の口山量水試験地(写真)は、主に瀬戸内などの少雨地域を受け持つために、1937年に設置されて以来67年間も続く長期森林水文試験地です。

対照流域法
  岡山市竜の口山量水試験地は、北谷・南谷という隣接した2つの流域によって構成されています。今は、北谷・南谷の二つの流域とも落葉広葉樹を中心とした林に覆われていますが、たまたま山火事やマツ枯れによって南谷の森林のみが消失した時期がありました。この消失前後の期間における北谷と南谷の流出量を比較することにより、森林の影響を明らかにすることができました。隣接する二つの流域の流出量を比較する方法を「対照流域法」といいます(図1)。
図1 竜の口山量水試験地における対照流域法
図1 竜の口山量水試験地における対照流域法

  雨が降り始めると、雨水はまず土壌に浸透します。土壌がある程度湿った後に雨水は河川に流出します。同じ10mmの雨が降った場合でも、長雨が降り続いた後で土壌が湿っていた場合と、何日も晴天が続いて土壌が乾燥していた場合とでは、河川に流出する量は大きく異なります。このように河川流出量やその変動は雨の降り方や降る時期などによって年々様々に変化するため、森林消失前後における南谷流域からの流出量を比較するだけでなく、北谷地域からの流出量を基準として比較する「対照流域法」が考案されました。

流況曲線
  1年間を通じて計測した365個の日流出量を、大きい順に並べ変えると「流況曲線」が得られます(図2)。曲線の左の方は大雨直後などの水位の高い時の日流出量を、右の方は渇水時などの水位の低い時の日流出量を表します。

図2 森林消失による流況曲線の変化の一例
図2  森林消失による流況曲線の変化の一例
(南谷流域1960年の場合)



森林消失による流況曲線の変化
  南谷流域の森林は、山火事、マツ枯れなどによる森林消失時期が19年間あります。一方の北谷流域では、その間も一貫して森林が存在していました。北谷流域で観測された流況曲線を基準として、南谷の森林が健全であった場合に得られたであろうと推定される流況曲線(図2中の緑線)を試算しました。そして実際に観測された流況曲線(図2中の赤線)と比較しました。図2は森林消失時期19年間のうち、1960年の場合です。
  その結果、観測流況曲線(赤線)の示す日流出量は、常に推定流況曲線(緑線)の示す日流出量よりも多くなりました。このことは日流出量の多寡にかかわらずほぼ全ての日において、森林の消失により日流出量は増加したことを意味します。赤線の示す日流出量から緑線の示す日流出量を差し引いた値が、森林の消失により増加した流出量に相当します。19年間平均での増加量を図3に示しています。19年間での日最大増加量は23.2mm/日でした。図4中の緑色の部分は、森林消失時の日流出量のうち、森林の消失によって増加したと推定される流出量の占める割合を示しています。図3と図4を見比べると、まず洪水の危険性が問題となるような降雨直後の水位の高い時期(図中では日数の小さいほう)には増加割合は約15%と比較的少ないものの、増加量は最大で4mm/日と多いことが解ります。この4mm/日というのは森林面積あたりの流出量ですから、河川水位の上昇は数mにも及ぶ場合があります。逆に水不足が問題となるような水位が低い渇水時(図中では日数の大きいほう)には、増加量は約0.05mm/日と少ないものの増加割合は約30〜40%と、水資源の観点からすれば大きなものでした。

  竜の口山量水試験地での結果では、「森林の消失は、1)降雨直後の出水が多くなる。2)渇水時の流出量が多くなる。3)増加割合は渇水時の方が大きい。」という功罪両面の結果をもたらすことが解りました。つまり森林のもたらす機能が人間社会にとって好ましい影響と好ましくない影響を併せて及ぼしているのです。これら両面のバランスを考慮した森林管理を行うためには、どの程度の森林消失がどの程度の河川流出量の増加をもたらすのか、“定量的な関係”を今後明らかにしていく必要があります。67年もの長い蓄積を持った有数の対照流域試験地である竜の口山量水試験地における流出量の観測と森林管理に関する本報告は、その具体的な一例を示したものですが、今後とも全国的な継続した観測が重要です。

    図3 南谷の森林消失による日流出量の増加量
     図3  南谷の森林消失による日流出量の増加量
(図2の赤線の値から緑線の値を引いた
値の19年分を平均したもの)
図4 南谷の森林消失による日流出量の増加割合
図4  南谷の森林消失による日流出量の増加割合
 <実行課題> イイ3 a
   水流出のモニタリングと全国森林流域の類型化

   玉井幸治・後藤義明・小南裕志・深山貴文(関西支所)


 研究の“森”から 第130号 平成17年2月4日発行
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