ISSN  1348-9798
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独立行政法人
森林総合研究所
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第132号
平成17年3月11日発行
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食物連鎖で汚染された野生生物たち


広がる汚染物質
  ダイオキシン類やDDTといった有害な化学物質は、脂肪に溶けやすい一方で、体内での分解や体外への排出がされにくいため、餌などを通して生物の体内に取り込まれ、徐々に蓄積されていくという性質があります。つまり、生物濃縮されやすいのです。また、水や大気によって遠くまで運ばれやすいため、発生源から離れた場所でも汚染を引き起こすことがあります。このような化学物質は残留性有機汚染物質と呼ばれ、ストックホルム条約によって現在12種が国際的な規制と削減の対象となっています。しかし、規制以前に放出されたものが環境中にすでに広く薄く分布しており、生態系の食物連鎖を通じて、生物の体内にしばしば高濃度で蓄積し、野生生物に害をおよぼしています。

日本の野生生物を調べる
  私たちは、1999〜2004年にかけて、茨城県内にある里山と沼の周辺で、土や植物、昆虫、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類、鳥類などを採集し、食物連鎖による生物濃縮の実態を調べました。これらの調査地は有害な化学物質でひどく汚染された場所ではないため、得られた結果は、ごく一般的な日本の里山や沼の状況を表しているものと考えられます。以下では、数あるダイオキシン類の濃度を最も毒性が強いダイオキシンの量に換算(これを毒性等量値といいます)して、脂肪1gあたりのpg(ピコグラム)という濃度の単位で表記します。1pgというのは1gの1兆分の1という想像できないほどの極微量のことですが、ダイオキシン類は大変毒性が強いので、このような濃度でも野生生物にとっては問題になるのです。なお、この研究では主に肝臓中の濃度を測定しました。

チュウサギ
チュウサギ

汚染された捕食者たち

  調査で明らかになったダイオキシン類の濃度を野生生物ごとに比べてみると(図1)、さまざまな野生生物のなかで飛び抜けて濃度が高かったのは、鳥類のカワウとオオタカで、それぞれ23000pg、15000pgでした。これは日本人の平均的な肝臓中の濃度の260〜500倍という大変高い濃度です。他の鳥類では、チュウサギやゴイサギの成鳥で平均4400pgという比較的高い濃度でした。哺乳類では、ニホンイタチやキツネ、アズマモグラで高く、それぞれ4200pg、3000pg、4400pgでした。これらの鳥類や哺乳類は、他の野生生物を食べるいわゆる捕食者と呼ばれる野生生物です。
図1 野生生物のグループごとのダイオキシン類の濃度
    図1 野生生物のグループごとのダイオキシン類の濃度。
       単位は脂肪1gあたりの毒性等量値。
       ただし、植物は生重1gあたりの毒性等量値


ニホンイタチ
ニホンイタチ
アズマモグラ
 アズマモグラ(撮影:前園泰徳氏)
食物連鎖と生物濃縮
  では、これらの捕食者の餌となる野生生物ではどうでしょうか。カワウやサギ類の餌となる魚類やカエルでは平均210pgと比較的低いレベルでした。サギ類の幼鳥では平均440pgだったので、魚類やカエルなど比較的濃度が低い餌を食べて成長し、何年もたつと餌の10〜100倍の濃度になることがわかりました。他の捕食者と餌との関係をみても、おおむね食物連鎖の段階を1つあがるごとに濃度が約10倍になる傾向が判りました。このように詳しく生態系の生物濃縮を調べた研究は日本で初めてです。

生態系内の濃度分布
  ダイオキシン類は、ダイオキシン、ジベンゾフラン、コプラナーPCBの3つの化学物質に分かれます。これらの濃度の比率は生態系のなかで大きく異なっていました(図2)。土壌ではダイオキシンがほとんどで、ジベンゾフランとコプラナーPCBの比率は低い傾向がありました。植物と無脊椎動物の比率がよく似ているのは、植物を食べる昆虫を調べたためと思われます。鳥類と魚類、爬虫類ではコプラナーPCBがほとんどを占めていますが、これは捕食者に、その餌となる野生生物の濃度分布が反映されたためと考えられます。このように、生態系内の濃度分布は食物連鎖と強い関係があることが判りました。
これからの課題
  この研究によって、過去に環境中に放出された有害な化学物質が、生態系の中を今も循環し、現在でも食物連鎖を通じて生物濃縮されている実態が明らかとなってきました。しかし、その影響については、野外での調査がむずかしく、まだ十分に判っていません。野生生物が健全に暮らせる環境は人間にとっても望ましいものです。私たちは、彼らの声なき声に耳を傾け、有害な化学物質の排出量を厳しく抑制し、環境を浄化していかなくてはなりません。
図2 野生生物のグループごとのダイオキシン類の濃度の比率
図2 野生生物のグループごとのダイオキシン類の濃度の比率
 <実行課題> オ イ 1 b 2
   野生鳥獣における有機塩素系化合物の蓄積と生物濃縮実態の解明

   安田雅俊、山田文雄、川路則友(野生動物研究領域)
   大河内勇(森林昆虫研究領域)
 研究の“森”から 第132号 平成17年3月11日発行
 編集発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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