ISSN  1348-9798
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独立行政法人
森林総合研究所
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第133号
平成17年3月25日発行
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森の中を窒素はめぐる


なぜ窒素が重要か?
  窒素(N)は植物にとって成長に必須の物質ですが、植物は大気中に豊富にある窒素ガスを直接に利用することはできません。このため、窒素は植物にとって不足しがちな養分であり、植物の生産を制限している物質ともなっています。一方で、植物の吸収量以上の過剰な窒素は河川水や地下水に流出して、湖沼や沿岸海域を富栄養化させることも知られています。一般に森林から流出する渓流水には窒素はほとんど含まれておらず、下流の農地や都市域へときれいな水を供給しています。これは、森林では不足しがちな窒素を逃さないように巧みに土壌や植物中に蓄積し、さまざまな経路によって森林の中を循環させているためだと考えられています。

図1 森林における窒素の流れ
図1 森林における窒素の流れ


森林における窒素の動き

  森林を取りまく窒素の蓄積と動きは図1のようにまとめられます。窒素の蓄積の場となっているのは植物と土壌です。そして、植物による吸収、落葉としての土壌への還元という循環が一番重要な動きとなっています。落葉として土壌に戻された窒素は、有機物であるため利用しにくい形となっており、土壌中の微生物によって植物が吸収しやすい無機態の窒素へと変化します。これを無機化といいます。この無機化された窒素が再び植物に吸収されます。また、窒素は降水により森林以外からも供給されます。一方、植物に吸収されなかった窒素は水に溶けて地下へと浸透し、渓流水や地下水として森林外へと流出します。微生物による大気からの固定と、脱窒による大気への放出も重要な動きとなっています。
森林では窒素はどこに、どのように、どれくらい貯えられ、動いているか
  1つの森林における蓄積量と移動量がどのような大きさとなっているのか、という問題については、測らなければならない項目が多すぎて、具体的にはよくわかっていませんでした。そこで、私たちは茨城県中部の斜面中・下部が約40年生のスギの人工林、斜面上部がアカマツの混入した落葉広葉樹林において、継続的に、かつ集中的に調査、観測を行いました。調査した結果を図2に示します。図中の矢印にともなっている数字は移動量で1ヘクタール(ha)あたりの年間移動量(kg)で示してあります。また、四角で囲んだ数字は蓄積量で、1haあたりの量(kg/ha)に換算してあります。
  森林への窒素の供給源として、降水と微生物による固定が挙げられます。一方、森林からの損失は、渓流水による流出と微生物による脱窒が挙げられます。残念なことに、脱窒に関しては測定手法がまだ確立していないために、その移動量を把握できていませんが、固定量と同程度ないしはそれ以下であると見積もっています。このような外部とのやりとりから、この森林には年間数kg/ha程度の窒素が貯まると考えています。
図2 茨城県中部の森林流域における窒素の蓄積量と移動量
図2 茨城県中部の森林流域における窒素の蓄積量と移動量

  一方で、森林の中では樹木が土壌において無機化された窒素を吸収して、そのうちの3分の1から4分の1程度の量を樹体に蓄積し、残りを落葉として林地へと戻します。土壌および林床の堆積有機物(A0層)には樹体の蓄積量の6〜10倍程度の窒素が蓄えられていますが、そのほとんどは有機態の窒素です。その中の一部が微生物によって無機化され、ほとんどが樹木に再利用されています。
  斜面中・上部では降水として供給された窒素、無機化によって生成された窒素のほぼ全量を樹木が吸収するために、地下水や渓流水への流出はほとんどありません。しかし、斜面下部では無機化量が大きいこともあって、土壌水に溶出した窒素を樹木が取り逃がして、渓流水へと流出させています。つまり、渓流水中に含まれる窒素の多くは、斜面下部で樹木が吸収し損なった窒素だということがわかりました。

 <実行課題> イイ4b
   森林流域における窒素等の動態と収支の解明

   吉永秀一郎(立地環境研究領域)、阿部俊夫(水土保全研究領域)
   溝口岳男(木曽試験地)、山中高史(森林微生物研究領域)
 研究の“森”から 第133号 平成17年3月25日発行
 編集発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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