ISSN  1348-9798
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独立行政法人
森林総合研究所
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第134号
平成17年3月25日発行
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ユーラシア大陸北東部のカラマツ林生態系

  中学や高校で使用した地図帳では、北半球の高緯度地域にタイガ(針葉樹林帯)が帯状に描かれ、そこにはポドゾルという土壌が分布し、さらに北の地域には永久凍土があってツンドラが広がっているとされています。しかし北東ユーラシアでは、北緯58度あたりから北の連続永久凍土の分布域に広大なカラマツ林が成立していて、教科書とは大きくかけ離れた景観が広がっています。
  近年、地球の温暖化は極域で顕著な影響が現れると懸念されることから、私たちは北東ユーラシアの永久凍土地帯に成立したカラマツ林生態系の研究を、とりわけ炭素収支や集積量がどのようになっているかに注目して調べています。その一端を紹介しましょう。

永久凍土のタイプと分布
  永久凍土の分布は必ずしも緯度に沿っていません。大陸間で違いが大きく、永久凍土と一口に言っても、その地域全域に分布する連続永久凍土(図中の紫色)、所々凍土が欠落した不連続永久凍土(赤色)、凍土は限られた場所に点在する点状分布域(黄色)、さらには沿岸海洋底凍土(灰青色)などに分類されます(図1)。
  北欧には連続永久凍土はほとんどありませんし、そもそも森林地帯に凍土はありません。北米大陸と北東ユーラシアには連続永久凍土があり、北米大陸では連続永久凍土と不連続永久凍土との境界線は、一部の例外を除いて森林の北限とほぼ一致します。しかし、北東ユーラシアの連続永久凍土上には広大なカラマツ林が成立しているのです。
図1 永久凍土の分布
図1 永久凍土の分布

永久凍土地帯のカラマツ林

  北東ユーラシアの連続永久凍土分布域に広がる落葉針葉樹のカラマツは、5月下旬にようやく芽吹き、9月の中旬には黄葉・落葉してしまいます。わずか3ヶ月程度しか生育期間がありません(写真1:春(6月上旬)、写真2:夏(7月下旬)、写真3:秋(9月上旬))。
  中央シベリア(北緯64度‐東経100度)のトゥラという場所で、ロシア科学アカデミー・スカチェフ森林研究所と共同研究を行っています。


写真1 春(6月上旬)
写真1 春(6月上旬)

写真2 夏(7月下旬)
写真2 夏(7月下旬)
写真3 秋(9月上旬)
写真3 秋(9月上旬)

図2 森林生態系の模式図
図2 森林生態系の模式図
写真4 凍土面の出たところ
写真4 凍土面の出たところ
写真5 カラマツの短枝葉
写真5 カラマツの短枝葉


森林生態系をめぐる炭素循環

  大気中の二酸化炭素はまず植物の光合成によって有機物となり、落葉、枯死根などが分解されて腐植となって土壌に集積します。各部分の炭素量を測ったり、各部分の間を移動する量(呼吸や分解で放出される量など)を測ったりして、生態系の炭素収支を推定します(図2)。

永久凍土面がでた土壌断面
  冬季は−60℃にもなる永久凍土地帯ですが、夏には30℃を越えることもしばしばで、夏季には土壌表層が融解します。その部分を活動層と呼びます。永久凍土は非常に硬く、シャベルでは掘れません。冷凍庫に入れっぱなしのアイスクリームを想像してください。写真で白く見えるのが凍土面です。(写真4)。

カラマツの針葉
  永久凍土地帯のカラマツには、枝の先端から旺盛に伸びる長枝はほとんど見られず、針葉の大部分が短枝から出た短枝葉です。針葉が出る短枝の基部が、毎年積み重なっているのがわかります(写真5)。

活動層に広がるカラマツの根系

  森林火災の後には凍土面が1m程度融解沈下しますが、林床の植物が回復すれば凍土面は再び上昇し、活動層は数十cmに戻ります。その中にカラマツは根系を張り巡らし(写真6)ています。
写真6 カラマツの根
写真6 カラマツの根


永久凍土地帯のカラマツ林生態系の炭素分布

  ヤクーツク(北緯62度-東経129度)、トゥラ(北緯64度-東経100度)、チェルスキー(北緯69度-東経160度)のカラマツ林における炭素分布量推定値を図3に示します。有機炭素が最も多く存在するのは土壌ですが、植物体の全炭素量の4〜5割を根が占めるという驚くべき結果が得られました。
図3 永久凍土地帯のカラマツ林生態系の炭素分布
図3 永久凍土地帯のカラマツ林生態系の炭素分布
写真7 CO2観測タワー
写真7 CO観測タワー


二酸化炭素の収支観測

  中央シベリアの連続永久凍土分布域のカラマツ林生態系で、生育期間中の二酸化炭素収支の観測を開始しました(写真7、電源は太陽電池)。
 <実行課題> オイ2d
   森林生態系における炭素固定能の変動機構の解明

     松浦陽次郎(立地環境研究領域)
     梶本卓也(九州支所)、
     中井裕一郎(北海道支所)



 研究の“森”から 第134号 平成17年3月25日発行
 編集発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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