ISSN  1348-9798
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独立行政法人
森林総合研究所
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第137号
平成17年6月30日発行
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民家は地震でどれくらい傾いたら倒れるか?


民家の耐震性能を調査する

  民家は、その地方の伝統を受け継ぎつつ、新しい生活スタイルの浸透によってリフォームされながら、長い年月にわたって使用されてきています。現代的な木造住宅では、筋かいの入った壁や合板を張った壁が地震に抵抗しています(これらの壁を耐力壁といいます)が、民家は座敷・広間・土間などの大空間を持つがゆえに耐力壁が少なく、地震に対しては主に、差鴨居(さしがもい)と呼ばれる大断面の水平部材と大黒柱などの太い柱、それらに取り付く壁などが抵抗します。民家の耐震性能としては変形のしにくさ(剛性)と強度、粘り強さの3つが重要ですが、粘り強さについては、これまで民家を倒壊するまで加力した実験例がほとんどなく、まだよくわかっていませんでした。
  森林総合研究所では、茨城県つくば市内の民家(写真1)の解体に際し家主の協力を得て、民家を倒壊するまで水平方向に加力する実験(以下、倒壊実験と呼びます。)、木材の樹種調査、材料・接合部調査、劣化調査、柱の傾斜測定、振動性能の測定、温湿度環境測定を実施しました。以下、民家の粘り強さを調べるために行った倒壊実験について紹介します。

倒壊実験のあらまし
  調査した建物は明治20年(1887年)に建築されました。この民家には改装された部分がありましたが、加力実験に際して改装部分と建具、畳などを撤去し、建設当初に近い状態にしました。建物の中央付近にある梁の2箇所を、建物がねじれないように引っ張り、建物がある角度まで傾いた時点で一旦力を緩め、傾きを大きくしながらそれを何度か繰り返した後、最終的には倒壊させました。一旦力を緩めたのは、傾きが大きくなると、力を緩めてもその傾きは完全には元に戻りませんが、その戻らない傾き(残留変形といいます)を求めるためです。

写真1 調査建物全景
写真1 調査建物全景

結果は?
  図1に倒壊実験の荷重(引っ張った力の大きさ)と建物の傾きとの関係を示します。傾きは、軒の高さに対する水平方向の変形量の割合で表現します。傾きが1/10(5.7度)の時に最大荷重53.2kN(kNは力の単位。従来の表記で平たく言えば、5.42トン)に達しました。さらに引っ張ると、傾きが約1/4(14.3度)になった時点で倒壊しました。倒壊直前の荷重は約20kN(約2トン)でした。この結果を、現代的な木造住宅(筋かいの入った住宅)の倒壊実験結果の例と比較すると、粘り強さに関してはそれほど差がありませんでした。現在、詳しい解析を行っていますが、金物を使用していない民家の引っ張りに対する耐力は低いものの、現代的な構法と同程度の粘り強さがあり、その粘り強さがあることによって、ある程度の耐震性を有していることがわかりました。今後も同様の調査・実験を実施し、データを充実させ、民家の耐震メカニズムの解明を続けていきたいと考えています。

写真2 倒壊の瞬間1

写真2 倒壊の瞬間2

写真2 倒壊の瞬間3

写真2 倒壊の瞬間4

写真2 倒壊の瞬間5

写真2 倒壊の瞬間(撮影:秦野恭典)
図1 加重と建物の傾きとの関係
図1 荷重と建物の傾きとの関係
  倒壊までの実験を快諾してくださった建物所有者の方、実験に多大なご助言・ご協力をいただいた関係各位に厚く御礼申し上げます。
 <実行課題> ケア2c
   木質構造の構造要素の耐力発現機構の解明とその理論化

     杉本健一、青井秀樹、軽部正彦、原田真樹、長尾博文、
     三井信宏、林 知行、神谷文夫(構造利用研究領域)、
     渋沢龍也、鈴木憲太郎(複合材料研究領域)、
     桃原郁夫(木材改質研究領域)
 研究の“森”から 第137号 平成17年6月30日発行
 編集発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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