ISSN  1348-9798
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独立行政法人
森林総合研究所
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第138号
平成17年8月12日発行
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絶滅危惧種の保全はみんなの「ちから」で
−マツ材線虫病からヤクタネゴヨウをまもる試み−


はじめに
  「世界自然遺産の屋久島」と「宇宙ロケット発射基地の種子島」。日本を代表する「自然と技術」の2島にのみ自生するマツがあります。それがヤクタネゴヨウ(屋久島と種子島の五葉松の意味)です(図1・写真1)。
  現在ヤクタネゴヨウは、屋久島で2,000本、種子島で300本程度しか生き残っていないと推定されています。近年、個体数の減少が著しく、このままでは絶滅する危険性が高いことから、「絶滅危惧種IB類」として日本版レッドデータブックに掲載されています。このヤクタネゴヨウを保全するために、個体数減少の原因の解明と対策の実施が急務となっています。

図1 ヤクタネゴヨウの自生地
図1 ヤクタネゴヨウの自生地
今そこにある危機
  江戸時代、種子島のヤクタネゴヨウは、鹿児島(島津)藩種子島氏によって保護管理されており、幹回り5尺(胸高直径50cm)以上の個体が400本以上分布したとの記録がありますが、明治時代から第二次大戦後にかけて丸木舟や建築材へ利用するため、多くが伐採されました。すなわち、これまでのヤクタネゴヨウの減少には、人間の活動が大きな影響を及ぼしたと考えられています。
  最近、自生地では、ヤクタネゴヨウの白骨化した枯死木が目立っています(写真2)。この原因として、マツノマダラカミキリによって運ばれるマツノザイセンチュウという体長1mmにも満たない生き物が病原体であるマツ材線虫病(いわゆる松くい虫)による被害が疑われました。このマツ材線虫病によって、日本のマツ林は深刻な被害を受けており、大きな社会問題になっています。しかし、これまでヤクタネゴヨウの枯死にマツ材線虫病が関わっているという十分な証拠はありませんでした。
写真1 西之表市鴻之峰小学校のヤクタネゴヨウ
写真1 西之表市鴻之峰小学校の
ヤクタネゴヨウ
写真2 ヤクタネゴヨウの白骨木
写真2 西之表市植物群落保護林内
のヤクタネゴヨウの白骨木
  そこで森林総合研究所では、ヤクタネゴヨウの枯死(個体数減少)とマツ材線虫病との関係を明らかにするために、種子島でのモニタリング調査と併せて、ヤクタネゴヨウ成木へのマツノザイセンチュウの接種試験を行いました。
  マツノザイセンチュウの接種密度を2段階(マツ1本につき10万頭と1,000頭)に設定して試験を行った結果、早いもので8週目、遅いものでは33週目までに枯死しました(図2)。一方、比較対象として1,000頭を接種したクロマツでは、接種6週目までにすべて枯死しました。つまり、ヤクタネゴヨウは、クロマツよりマツ材線虫病で枯れにくいのですが、最終的にはマツノザイセンチュウの接種密度と関係なく枯れてしまうことが判明しました。

  樹高2m以上のヤクタネゴヨウ成木132本を対象にしたモニタリング調査の結果では、1994年からの10年間で42本(32%)が枯死し、2003年には最も多くの枯死木が確認されました(図3)。材片試料が採取できた枯死木33本のうち、23本(70%)からマツノザイセンチュウが検出されました。
  これらの結果より、種子島のヤクタネゴヨウの枯死(減少)には、マツ材線虫病が大きな影響を及ぼしていることが確認できました。
図2 マツノザイセンチュウ接種後の状況
図2 ヤクタネゴヨウとクロマツに対する
マツノザイセンチュウ接種後の状況
(Akiba and Nakamura(2005)を改変)
保全にむけて
  種子島のヤクタネゴヨウに、マツ材線虫病の被害が発生している現状をこのまま放置していると、地域個体群の消失ひいては島全体での絶滅の可能性があります。枯死の原因が明らかになった今、それを早急に排除していくことが重要です。
  マツ材線虫病被害の拡大防止については、枯れたマツを伐り倒して焼却あるいは薬剤処理により、枯死木内に潜むマツノマダラカミキリの幼虫を殺す方法があります。
  そこで、マツ材線虫病で枯れたヤクタネゴヨウと周辺のクロマツを伐倒し、長さ30〜50cmの丸太に玉切りにして林外へ搬出しました(写真3)。また、マツノマダラカミキリが入り込んでいる可能性がある直径1cm以上の枝も袋詰めにして搬出しました。搬出した丸太と枝は、焼物製作の薪として利用(焼却)しました。また林外に搬出ができなかった地域では、薬剤によるくん蒸処理を行いました。これらの活動により、防除実施地域では、数年以内にヤクタネゴヨウに対するマツ材線虫病の被害は発生しなくなると期待されています。
写真3 枯死木丸太搬出の様子
写真3 ヤクタネゴヨウの枯死木丸太を
搬出している様子


図3 種子島における生存率と枯死本数の推移
図3 種子島におけるヤクタネゴヨウの生残率(上段)と
枯死本数(下段)の推移


  なおこの活動は、2003年より「種子島ヤクタネゴヨウ保全の会」や「屋久島ヤクタネゴヨウ調査隊」といったヤクタネゴヨウの保全を目的として結成された市民団体と林野庁屋久島森林管理署、鹿児島県および森林総合研究所との連携で行われています。つまり絶滅危惧種ヤクタネゴヨウの保全は、研究機関や行政機関の働きに加え、地元住民の理解と協力で成り立っているのです。
  屋久島でもモニタリング調査を行っていますが、ここ10年間、ヤクタネゴヨウの枯死は台風災害によるものが主で、マツ材線虫病による被害は確認されていません。しかしながら、自生地近くのクロマツ枯死木からマツノザイセンチュウが検出されており、将来的にマツ材線虫病の被害がヤクタネゴヨウに及ぶことが懸念されます。今後は、種子島での活動例を踏まえて、監視と迅速な枯死木処理の体制を整備することが必要不可欠です。


引用文献
Akiba,M.and Nakamura,K(2005)Susceptibility of abult trees of the endangered species Pinnu armanii var.amamiana to pine wilt disease in the field.Journal of Forest Research 10:3-7.
金谷整一ほか(2005)種子島木成国有林におけるマツ材線虫病で枯死したヤクタネゴヨウの伐倒駆除.保全生態学研究10(1):77−84.
 <実行課題> アウ2c
   屋久島森林生態系の固有樹種と遺伝的多様性の保全条件の解明

     金谷整一、吉丸博志(森林遺伝研究領域)
     中村克典(東北支所)、秋庭満輝(九州支所)

 研究の“森”から 第138号 平成17年8月12日発行
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