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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.34
1995.02.24

ス ギ の 病 害 2 種

 
− 最 近 の 話 題 か ら −

 我が国のスギ人工林面積は440万haありますが,その80%が30年生以下の 若い林分で占められ,まだ十分な保護対策を必要とします。
 スギの病害はおよそ30種類ありますが,重要病害は数種に限られます。溝腐病, 枝枯性病害,黒粒葉枯病は材質劣化や成長阻害を起こすのでとくに重要です。 ここでは黒粒葉枯病と黒点枝枯病の発生生態と侵入機構を中心に紹介します。

  【黒粒葉枯病】

 葉を侵し,葉上の子実体が黒い粒に見えるのでこの名前が付きました。激発の とき全山が真っ赤になり,まるで山火事のようになります。病樹はめったに枯 れませんが,成長が極端に落ちます。

病気による成長阻害は?

樹高成長で40%,直径成長で30〜50%も滅少(図1)

図1 健全木と激害樹の樹高・胸高直径成長の比較

図1. 健全木と激害木の樹高・胸高直径成長の比較

病原菌と侵入方法

かびの仲間(子のう菌亜門・盤菌網)で胞子伝染する。

図2 病害菌と侵入方法(子実体)     図2 病害菌と侵入方法(葉上で発芽・気孔侵入)

子実体(子のう盤)       葉上で発芽・気孔侵入

                         図2. 病原菌と侵入方法

病原菌の生態

 感染源である子実体と胞子の形成は春と秋です(図3)。少雪地帯では春に, 多雪地帯(積雪深1m以上)では秋に形成します。原因は,発病時期が異なる からです。つまり,少雪地帯では 6月上旬に発病し,すぐ子実体を造り胞子 が成熟し発芽しますが,多雪地帯では2か月遅れの7〜8月になり,子実体は 高温のため造らず秋の低温時(10〜20℃)にずれます。秋形成の胞子はすぐ 発芽せず,3か月間の成熟期間を経て発芽するため翌春が感染時期です。環 境条件に適応した生態を持ってます。

図3 小雪・多雪地帯における子実体の発生消長
図3. 少雪・多雪地帯における子実体の発生消長

予防と防除

 この病気は,造林限界に近い高海抜の斜面,寒風害の発生しやすい地形,陰 湿な環境条件下,病気にかかりやすい(感受性)品種系統が多い林分で多発 するので,このような場所には造林を避け,枝打や除伐を行います。その際, 病害木や感受性木を淘汰し,林内に陽光が入るようにして,衛生的に保つと 被害は滅少します。

感受性・抵抗性品種の葉型の比較

感受性品種の葉型
感受性品種の葉型(オモテ系:ヨシノスギ、サンブスギなど)

抵抗性品種の葉型
抵抗性品種の葉型(ウラ系:アキタスギ、エンドウスギなど

【黒点枝枯病】

 名が示すように枝枯れを起こします。病樹は枯れませんが,いったん発病 すると慢性的に枝枯れを生じ成長を阻害します。この病気は1925年に発見 され,病名が付けられましたが,病原菌は未詳のまま過ぎました。一昨年 病原菌の発見に成功し,発生生態や感染機構が明らかになり,防除法の確 立に一歩前進しましたので紹介します。

病 原 菌 

 有性世代と無性世代が存在し,それぞれ型が異なります。いずれも未記載 種で,有性世代をStromania cryptomeriae Kubono et Hosoya(ス トロマティーニア クリプトメリアエ),無性世代をGloeosporidina cryptomeriae Kubono(グロエオスポリディーナ クリプトメリアエ) とそれぞれ命名記載しました。有性世代の子のう盤(写真1)は早春,落 枝葉上に形成されます。子のう盤は茶褐色,お椀状で,大きさは平均1cm です。子のう胞子は楕円形で,大きさは約10μmです(写真2)。無性世代 は発病枝に形成されます。分生胞子は円形で、大きさ約3μmのごく小さい ものです。

写真1 子のう盤 写真1. 子のう盤

写真2 子のう胞子 写真2. 子のう胞子

伝 染 病

   早春,子のう盤から放出された子のう胞子はスギ雄花に到達して発芽し, 感染が成立します(1次感染)。病原菌は雄花中に含まれる花粉や養分を 栄養源として繁殖します。約2か月間の潜伏期を経て,6月上旬雄花基部 から菌糸膜が現れ,肉眼的に病気にかかったことが確認されます。その後, 菌糸膜は緑葉上を伸長します。7月から8月の夏期に,菌糸膜は成長を停 止し突然消失します。それと前後して病斑が形成され,枝枯れを生じます。 病斑は毎年拡大され,数年を経て主枝に達し,主枝枯れ症状を呈します。 落下した枯枝上では越冬後,再び子のう盤が形成されて伝染源となり,病 気が繰りかえされます。また,この病気には2次感染が存在します。病原 菌に汚染された雄花が落下して健全緑枝に付着すると,そこから病斑が形 成され側枝や主枝を侵します。1次感染よりもむしろ2次感染の方が被害 甚大です。

スギ黒点枝枯病の伝染環

スギ黒点枝枯病の伝染環

枝葉への侵入方法

 雄花基部から緑葉上に出現した菌糸膜は,2つの侵入様式で細胞内に侵入 します。すなわち,菌糸が直接自然開口部の気孔から侵入する様式(写真 3)と気孔口で侵入子座様構造(菌糸の塊)を形成して侵入する様式です (写真4)。細胞内に侵入した菌糸の行動は不明ですが,今後この行動を 明らかにすることと,菌糸と植物細胞との相互作用を追求することが残さ れた課題です。

写真3 菌糸による気孔侵入
写真3. 菌糸による気孔侵入

写真4 子座様構造による気孔侵入
写真4. 子座様構造による気孔侵入

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