地球温暖化によるブナ林分布の変化
問題名:風致林及び都市近郊林の育成・管理技術の高度化
担 当:林業経営部生産システム研究室 天野正博
関西支所土壌研究室 鳥居厚志
九州支所経営研究室 松本光朗
背景と目的
産業革命以後の地球大気の組成をみるとCO2 の増加が著しく,50〜100
年後には産業革命前に比べ倍増し,それによって気温が2〜5℃上昇する
と考えられている。森林は光合成によりCO2 を吸収する働きがある一方で,
温度の上昇によって森林分布が変化したり,衰退するおそれもある。ここ
では,米国の海洋・大気局で開発されたGFDLと呼ばれる大気循環モデ
ルの計算結果を用い,ブナ林分布の変化の様子を調べた。
成 果
ブナ林分布が気温の上昇によって変化した経緯は,紀元前12,000〜
6,000年にもあり,花粉分析で当時の分布移動速度をみると,せいぜい
年間150mであった。これは50年間で7.5km移動するだけであり,いま
予測されている気温上昇の速度からみれば,ほとんど移動できないと考
えてよい。シイ・カシ林の分布の移動についても同様の結果を得た。そこ
で,約3,000の全国の市町村を単位とし,わが国の代表的な広葉樹である
ブナ,シイ・カシが優先している地域を調べたところ,図1のようになっ
た。これと各市町村の月別平均気温,雨量,積雪,温量指数,寒さの指数
といったデータを用い、判別分析により気候からみてブナ及びシイ・カシ
に適した地域を色分けしたのが図2である。北部及び高地にブナの,南部
及び海岸沿いにシイ・カシの適地があり,その中間に両者の混交する地域
のあることが分かる。図1と図2の分布の差は,気候的に適地であっても
まだ樹種の分布が到達していなかったり,過去の人為活動によって伐採さ
れてしまった地域である。つぎに GFDLのシナリオに基づいて判別分析モ
デルで温暖化後のブナ及びシイ・カシの適地を計算したのが,図3であり,
明らかにプナの適地が縮小している。これら2樹種及び両者と混交するこ
とが多いコナラについて温量指数との関係を見ると,寒い地域にブナ,暖
かい地域にシイ・カシが分布し,コナラはあらゆる温量指数の地域に万遍
なく分布していた。このため,ブナ林が気温上昇によって衰退した後に代
償植生としてコナラ林が成立すると思われ,その結果を図4に示す。なお,
遠い将来にはコナラ林はシイ・カシ林に代わると考えられる。他の大気循
環モデルである米国 NASA の GISS ,英国気象庁の UKMO のシナリオでも
同じような結果になった。