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更新日:2016年7月29日

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ツキノワグマ出没の背景と対策

2016年、本州各地でツキノワグマの出没が相次いでいます。

また、秋田県では人身被害の事故も相次ぎましたが、人里や市街地で起きた事故と山の中で起きた事故は明確に区別する必要があります。このページでは、ツキノワグマの出没の要因と対策について、これまでの知見をとりまとめました。

写真1:ツキノワグマ
撮影:佐藤嘉宏

出没件数は増加傾向にある

ツキノワグマの出没は近年増加傾向にあります。

以下のグラフは全国のツキノワグマの有害駆除頭数を示しています。1970年代には全国的にツキノワグマの数が減少し有害駆除および狩猟の自粛または禁止措置がとられました。しかし、2000年頃からツキノワグマの出没が相次ぎ、2006年以降ツキノワグマの駆除数が全国で2500頭を超える年が現れました。この背景として、ツキノワグマの個体数が増加している可能性が指摘されています。絶滅のおそれのある地域個体群である東中国個体群(1)を抱える兵庫県では、2005年以降ツキノワグマの個体数は増加していると報告しています(2)

年ごとの全国のツキノワグマの有害駆除頭数
年ごとの全国のツキノワグマの有害駆除頭数

 

分布域は拡大傾向にある

ツキノワグマの分布
ツキノワグマの分布

もう一つの長期的な出没の要因として、ツキノワグマの生息域が広がったことが挙げられます。環境省(3)や日本クマネットワーク(4)の調査によれば、下図のように1978年(青)に比べて2003年(オレンジ)、2013年(赤)と分布域は拡大しています。

かつて、中山間地域は人里-里山-奥山と呼ばれる構造が日本各地で見られました。里山はかつて薪や炭など生活に必要な資源の供給源としてよく手入れされてきました。見通しのよい里山林はクマにとっては住みにくく、主な生息地は奥山でした。

しかし、近年中山間地域の過疎化や農林業の担い手の減少・高齢化により、耕作放棄地や利用されないまま放棄される里山林が増えていきました。見通しの悪い耕作放棄地や里山林はクマが身を隠して移動するのに都合がよく、その先にある農作物は魅力的な食べ物です。その結果、クマの生息域が私たちの生活圏と隣接するようになってしまったと考えられます。

 

人里に出没するクマが多い年、少ない年

ツキノワグマが人里や市街地に出没する数が年によって変動がある理由として、山にあるブナなどドングリ類の実のなり具合が変動していることが挙げられます。東北地方ではブナの結実量とクマの人里域への出没数(人里で捕獲される数)には何らかの関係があることが経験的にわかっています(5)

 

東北5県におけるツキノワグマの捕獲頭数とブナの豊作指数

東北5県におけるツキノワグマの捕獲頭数とブナの豊作指数
(ブナ:東北森林管理局(外部サイトへリンク)より 捕獲頭数:各県担当課より)

このグラフは福島県を除く東北5県におけるツキノワグマの捕獲頭数とブナの豊作指数です。

ブナの実が豊作の時には出没数が少なく、凶作の時には出没数が多いことがわかります。またブナは2年続けて豊作となることはなく、豊作の翌年は凶作が予測されることから、人里にクマが多く出没しそうな年は予測できそうです(6)。森林総合研究所では、ブナの実のなり具合について、東北、関東、中部、近畿中国森林管理局の協力を得て調査結果をホームページにおいて公表しています(森林総合研究所 ブナ等結実度データベース)。また、現在では各県が独自にドングリ類の豊凶調査を実施し、クマの出没情報との関連を探っています。例えば岩手県では2016年3月15日付けで「ツキノワグマの出没に関する注意報」を発表しています

 

豊作の翌年はもうひとつ注意しなければならないことがあります。それは、親子グマが人里に出没する可能性が高いことです。豊作の秋に十分に栄養を蓄えることができたメスは冬眠中に出産します。そのため今年は子どもを産んだメスが例年より多かったと考えられます。北欧のヒグマでは母グマは子どもを持たないメスグマに比べてより住宅地に近いところで行動していることがわかっており(7)、同様のことがツキノワグマでも考えられるため注意が必要です。
写真2:ツキノワグマの親子
ツキノワグマの親子(撮影:佐藤嘉宏)

 

今年は春先からツキノワグマの出没が見られますが、この出没はいつまで続くのでしょうか?例として、宮城県における人里での捕獲頭数の季節変化を見てみましょう。非出没年(点線)は夏に出没が増えることが多いのですが、出没年(実線)では春先から出没が増え、8月頃にピークを迎えます。今年(赤線)は例年に比べ春先から出没が多いことがわかりますが、すでに出没が頻発している地域ではこれから晩夏・初秋に向けてますます出没が増えていくと考えられます。
宮城県における月ごとの捕獲頭数

 

人里への出没を防ぐ

クマの出没が比較的多い地域においては、日常的にクマの出没を防ぐことが大事です。

クマは嗅覚が発達しており、臭いに惹きつけられてやってきます。ゴミは収集日の朝に出すように徹底しましょう。また、クマが開けられないゴミ収集所を利用している地域もあります。

中山間地域では集落の周辺のみならず、各家庭の庭先に栗や柿の木などが植わっている場合があります。クマはこうした実りにひきつけられ、庭の木の上で目撃された例も毎年のように報告されます。クマが木に登ることができないように高さ2m程度までトタン板を巻いたり(8)、不要な木は伐採することも選択肢の一つです。

また、上述のようにクマが人里に近づく際には、身を隠せるような場所を移動していると考えられるため、そうしたクマが身を隠せるような藪などを刈り払って見晴らしの良い状態にしておくことも有効でしょう。

人身事故を防ぐ

山中での人身事故は、人里へ出没するクマの数の多い、少ないとは関係がありません。クマによる人身事故を防ぐには、まず「出会わないこと」が肝心です。

そのため、熊よけ鈴を体やリュックにつけ歩く際に常時音を鳴したり、携帯ラジオを作業中など立ち止まっているときにも鳴らしたりして私たちの存在を知らせるのが有効です。

しかし、それでも稀に出会ってしまうことがあります。その時は決して悲鳴を上げたり、走って逃げたりしないでください。クマ自身も人間と会ってしまったことで恐怖心を抱きパニックになっています。落ち着いて、クマを見ながらゆっくり後ずさりしてください。

唐辛子成分入りのクマ撃退スプレーの携行も有効な手段です。万一、クマにかまれた時に頭部への致命的なケガを負わないよう、ヘルメットの着用を推奨します

 

森林総合研究所ではクマの出没に対する研究や情報発信に取り組んでおります。

 

参考文献

 (1) 環境省(2014)第4次レッドリストの公表について

 (2) 兵庫県(2015)ツキノワグマ保護管理計画

 (3) 環境省(2004)種の多様性調査 哺乳類分布調査報告書.

 (4) 日本クマネットワーク(2014)「ツキノワグマおよびヒグマの分布域拡縮の現況把握と軋轢抑止および危機個体群回復のための支援事業」報告書.

 (5) Okaet al. (2004) Relationship between changes in beechnut production and Asiaticblack bears in northern Japan. Journal of Wildlife Management 68: 979-986.

 (6) 岡(2006)KumaDAS(クマダス)のススメ. 森林総合研究所平成18年度研究成果選集: 16-17.

 (7) Steyaert et al. (2016)Ecological implications from spatial patterns in human-caused brown bearmortality. Wildlife Biology 22(4): 144-152.

 (8) 猪苗代町(2015)クマによるカキ、クリの被害を未然に防ぎましょう!

 

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