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プレスリリース平成28年4月7日
国立研究開発法人森林総合研究所

絶海の孤島、小笠原の鳥はどこから来たのか?

ポイント

  • 小笠原諸島のヒヨドリの二つの亜種の集団は、沖縄の八重山諸島と、本州または伊豆諸島というまったく異なる地域を起源とすることがわかりました。
  • 南硫黄島(火山列島)のメジロは、近隣の島の集団とも交流がないことがわかりました。
  • 移動性の強い広域分布種のヒヨドリやメジロであっても、島という特殊な環境では移動性を低下させることがわかりました。

概要

小笠原諸島は生物進化の見本となる生態系を持つ場所として、世界自然遺産に登録されています。ヒヨドリとメジロは全国に広く分布する鳥ですが、小笠原諸島には固有の亜種が生息しています。これらの亜種の起源と諸島内の集団の関係をDNA分析により明らかにしました。

分析の結果、ヒヨドリには起源を異にする二つの集団があり、小笠原諸島北部の小笠原群島に生息するオガサワラヒヨドリは沖縄県南部に位置する八重山諸島を起源とし、小笠原諸島南部の火山列島にいるハシブトヒヨドリは本州または伊豆諸島を起源とすることがわかりました。別の地域の祖先がそれぞれ独立して小笠原諸島に進出していたのです。

メジロは、小笠原諸島南部の火山列島に固有亜種イオウトウメジロがいます。この亜種は、南西諸島や伊豆諸島に分布する集団を起源としていました。また、南硫黄島のイオウトウメジロの集団は、隣の硫黄島の集団とはすでに交流がないことがわかりました。

本来は移動性の強いヒヨドリとメジロですが、島に定着してからは移動性が低下してしまい、他の島や列島との交流が失われたことがわかりました。今回の成果は、世界自然遺産としての小笠原の固有種がどのように作られてきたのかを示すものです。

 

予算:環境省環境研究総合推進費「小笠原諸島の自然再生における絶滅危惧種の域内域外統合的保全手法の開発」(4−1402)

研究課題番号:アウaPF10

研究課題名:小笠原諸島の自然再生における絶滅危惧種の域内域外統合的保全手法の開発

背景

小笠原諸島は、本州から1000km離れた太平洋に浮かぶ島群です。他の島や大陸とつながったことのない海洋島であるため、多くの固有種が進化しており、生物進化の見本となっています。その価値が世界的に認められ、2011年6月にユネスコにより世界自然遺産として登録されました。

小笠原諸島は、北部の「小笠原群島」と約160km南に離れた「火山列島」から構成されます。小笠原群島は4000万年以上前にできた古い島ですが、硫黄列島は数十万年ほどの歴史しか持たない若い島です。

ウグイスやカラスバトは両地域に同じ亜種が広く分布していますが、メグロやノスリは小笠原群島にのみ生息します。このような違いは、これら2地域が成立した年代の違いと関係があると考えられています。メジロとヒヨドリは北海道から沖縄まで広く分布する鳥ですが、メジロは火山列島にのみ固有亜種イオウトウメジロが自然分布します。ヒヨドリは小笠原群島には亜種オガサワラヒヨドリが、火山列島には亜種ハシブトヒヨドリが分布し、両者は形態的に異なっています。

このように独特の分布を持つ鳥の起源を明らかにすることは、海に孤立した島の生物相の成立と島の動物の特殊な進化を理解する上でとても重要なことです。

経緯

火山列島は北硫黄島、硫黄島、南硫黄島の3島から構成されています。火山列島には一般の人が住んでおらず定期航路がないため、これまでに十分に調査が行われてきませんでした。

火山列島と小笠原群島の距離は約160kmです。翼を持つ鳥にとっては、この距離はそれほど遠い距離ではありません。最近の遺伝学的な研究からは、カラスバトでは両者の間で遺伝的な交流があることが示されていますし、ウグイスは小笠原群島の集団から火山列島の集団が派生したことがわかっています。しかし、メジロとヒヨドリは両地域で共通の亜種がいない独特な分布を持っています。

私たちは火山列島で調査をする機会を得たので、これら2種に注目してミトコンドリアDNAの分析を行い、火山列島、小笠原群島、その他の地域の集団を遺伝的に比較することにしました。なお試料は環境省の許可を得て採集しており、また火山列島産の試料には、東京都による調査で収集されたものを含んでいます。

 

内容・意義

ヒヨドリの分析の結果、小笠原群島のオガサワラヒヨドリは沖縄県南部に位置する八重山諸島に起源を持つことがわかりました(図1)。一方、火山列島のハシブトヒヨドリは本州や伊豆諸島の集団に由来していることがわかりました。つまりヒヨドリは単純に小笠原諸島の中で2つの集団に分かれたのではなく、それぞれ異なる起源を持っていたのです。小笠原群島の集団も火山列島の集団も、島に定着した後で移動性を低下させ、交流のない独立した集団になりました。

メジロの分析結果からは、火山列島のイオウトウメジロが南西諸島や伊豆諸島に分布する集団に近縁であることがわかりました。また、イオウトウメジロが持つ遺伝配列は他の地域では見られないものでした。祖先集団が火山列島にやってきた後に、他の地域との交流がなくなり、独自に進化してきたものと考えられます。火山列島内でも、南硫黄島と硫黄島はわずか60kmしか離れていませんが交流がないことがわかりました(図2)。

メジロもヒヨドリも全国的に広い分布を持ち、一部では渡りも行う移動性の高い鳥です。高い移動性を持つ種類でも、島という特殊な環境では移動性が低下して、それぞれが独自に進化をしていることがわかりました。

イオウトウメジロもハシブトヒヨドリも、古い起源を持つ小笠原群島には進出せず、火山列島にのみ分布を広げました。これらの鳥が小笠原群島にたどり着いたときには、すでにメジロに近縁のメグロやオガサワラヒヨドリが先に分布していたため定着できなかったのかもしれません。この結果は、近縁種の存在が生物の定着に与える影響を考える上でも参考になります。

 

今後の予定・期待

今回の結果は、小笠原諸島という狭い地域の中でも、島が成立した時期の違いにより異なる生物相が成立することを示しています。これは、世界自然遺産である同諸島が持つ生物進化の見本としての価値をさらに高めるものと考えられます。

成立年代の異なる火山列島と小笠原群島でより多くの生物を比較することで、島の生物の進化の道筋を理解することが可能となると考えられます。

またこの結果から、小笠原諸島では鳥類という移動性の強い動物であっても、島や列島を単位として保全を行う必要があると言えます。

メジロもヒヨドリも小笠原諸島において外来植物の種子散布者となっており、島間を移動して外来植物を拡散させることが心配されています。DNA分析によりこれらの鳥の島間移動の有無を推定することで、外来植物の拡散可能性を予測し、その管理手法の策定にも寄与できます。

 

用語の解説

  • イオウトウメジロ
    メジロの固有亜種で、火山列島にのみ自然分布する。本州のメジロに比べて体が大きく足や尾が長いとされる。小笠原群島にはこの亜種および伊豆諸島の亜種シチトウメジロが外来種として移入されている。
  • オガサワラヒヨドリとハシブトヒヨドリ
    オガサワラヒヨドリは小笠原群島の固有亜種で、本州のヒヨドリに比べて体の褐色みが強い。ハシブトヒヨドリは火山列島の固有亜種で、他の地域のヒヨドリに比べて太いくちばしを持つ。
  • 南硫黄島
    火山列島南端の島。最高標高916m。過去に人が定住したことがなく、小笠原諸島の本来の自然の姿を残す場所として原生自然環境保全地域に指定され、立ち入りが厳しく制限されている。

 

問い合わせ先など

 研究推進責任者 : 森林総合研究所 研究ディレクター 小泉 透

 研究担当者 : 森林総合研究所 森林研究部門 野生動物研究領域 鳥獣生態研究室 主任研究員 川上 和人

 広報担当者 ; 森林総合研究所 企画部 広報普及科長 宮本 基杖
 電話番号 : 029-829-8135
  FAX番号 : 029-873-0844

 

 

 

 

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お問い合わせ

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