ホーム > 研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2018年 > 耕作放棄地には湿地・草地性鳥類が生息する ―耕作が放棄された農地の生物多様性保全機能を解明―

ここから本文です。

プレスリリース

2018年7月26日

国立大学法人 北海道大学
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所

耕作放棄地には湿地・草地性鳥類が生息する ―耕作が放棄された農地の生物多様性保全機能を解明―

ポイント

  • 耕作放棄地は農地に比べて湿地・草地性の鳥類が多いことを解明。
  • 18世紀以降、国内外で湿地と草地は農地や都市に転換され、湿地・草地性の生物も減少してきた。
  • 耕作放棄地の湿地・草地性鳥類にとっての価値を評価することで、これらの種の保全に期待。

 

概要

北海道大学大学院農学研究院の中村太士教授、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の山浦悠一主任研究員らの研究グループは、耕作放棄地には湿地・草地性鳥類が多く生息していることを明らかにしました。

中村教授らの研究グループは、北海道中央部の主な土地利用タイプ(耕作放棄地、湿地、草地、農地、森林)ごとに鳥類の生息調査を行いました。その結果、耕作放棄地での湿地・草地性鳥類の個体数は、本来の生息地である湿地や草地よりは少ないものの、農地より多いこと、また生息地の周りが開けているほど、それらの個体数が多いことが明らかになりました。

18世紀以降、国内外で湿地や草地は農地や都市に転換され、そこに生息する生物が減少してきました。一方で、世界各地で農地が放棄された結果、耕作放棄地が拡大しています。残された湿地や草地を守るだけでなく、その周辺の耕作放棄地を生息地として評価することで、湿地・草地性鳥類の保全につながることが期待されます。

なお、本研究は、独立行政法人環境再生保全機構環境研究総合推進費(4-1504)と独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成事業(JP26292074, JP16KK0176, JP14J05368)により実施されました。本成果は、2018年6月26日(火曜日)付けでAgriculture、Ecosystems & Environment誌に掲載されました。

(左)湿性耕作放棄地の写真 (右)乾性耕作放棄地

(左)湿性耕作放棄地。ヨシやクサヨシが優占している。かつて営農された履歴を有する。
(右)乾性耕作放棄地。乾燥地に生育するススキなどの草本やヤナギ類などの灌木が優占している。

背景

人間活動の増大により、湿地や草地、森林など多くの自然生態系が農地や都市などに転換されてきました。18世紀以降、地球上の湿地の約80%、草地の約40%、森林の約20%が失われたと指摘されています。これに伴い、それぞれの生態系に生息する生物も大きく減少してきました。一方で、人口減少や農業活動の縮小により、耕作が行なわれなくなった農地(耕作放棄地)が近年、世界的に増加しています。耕作放棄地は長期的には元の生態系に戻ることが多いことが知られています。このため、耕作放棄地の増加はこれまで生息地が失われてきた生物を保全する機会になりうると指摘されています。しかし、農地などの他の土地利用タイプと比べて、耕作放棄地にどのような生物がどれだけ生息しているかは明らかになっていませんでした。

研究手法

中村教授らの研究グループは、北海道中央部の石狩・胆振(いぶり)地方に調査地点を48カ所設置し、耕作放棄地を含むその地域の主要な6つの土地利用タイプ(湿地、草地、湿性放棄地、乾性放棄地、農地、森林)で鳥類の生息数を調べました。なお、耕作放棄地は生育する植物種によって湿性と乾性に区別しました。観察された鳥類種を4つのグループ(湿地性、草地性、農地性、森林性)に分類し、土地利用タイプ間での生息個体数を比較しました。また、周辺の開けている土地(開放地)の面積割合が生息個体数に及ぼす影響も調べました。

研究成果

解析の結果、耕作放棄地に生息する湿地・草地性鳥類の個体数は本来の生息地である湿地や草地より少ないものの、農地や森林より多い傾向がありました(図1)。特に、コヨシキリ、オオジュリンなどの湿地性種4種については、農地よりも湿性耕作放棄地の個体数が顕著に多く(図2)、そのため、農地が放棄されることにより個体数が増加すると予想されました。また、乾性放棄地で高い値を示す草地性種もみられました(図3)。一方で、農地性、または森林性鳥類の個体数はそれぞれ主な生息地である農地、または森林で多く、農地性と森林性鳥類の個体数はいずれも耕作放棄地や湿地、草地では少ない傾向にありました(図1)。また、周囲の開放地の割合が高いほど、湿地、草地、農地性鳥類の個体数が増加する傾向も見られました。

図1.4つの鳥類グループの各土地利用への平均的な反応の図表

図1.4つの鳥類グループの各土地利用への平均的な反応
主要な6つの土地利用における各グループの2haあたりの平均個体数を示す。例えば、湿地性鳥類の場合では、9種の湿地性鳥類の種間平均値(1種当たりの個体数の期待値)を示す。黒丸は中央値、エラーバーは95%信頼区間を表す。土地利用タイプ間で有意差が認められた場合のみ、その違いをアルファベットで示した(同じ文字を有さない土地利用タイプ間には有意差がある)。耕作放棄地は生育する植物種によって湿性放棄地と乾性放棄地に区分した(1ページの写真参照)。

図2.耕作放棄地で顕著な個体数を示した代表的な湿地性種の図表
図2.耕作放棄地で顕著な個体数を示した代表的な湿地性種
図1と同様に各種の平均的な個体数を示している。

図3.耕作放棄地で大きな個体数を示した代表的な草地性種の図表

図3.耕作放棄地で大きな個体数を示した代表的な草地性種
図1と同様に各種の平均的な個体数を示している。

今後への期待

日本国内では最近100年間で、湿地の約60%、草地は約90%が失われました。わずかに残された自然生態系を保全することは重要です。しかし、今後も人口の減少と農地の放棄が課題となる日本では、耕作放棄地を生物の生息地として評価することで、これまで減少してきた湿地・草地性の生物を保全できることが期待されます。一方で、農地の耕作放棄は生物の個体数を減少させるという報告があることや、本研究で耕作放棄地に森林性鳥類の生息がほとんど確認されなかったことから、今後は耕作放棄の影響の地域差やその時間的推移も明らかにしていく必要があります。

論文情報

論文名:Assessing the landscape-dependent restoration potential of abandoned farmland using a hierarchical model of bird communities(鳥類群集の階層モデルを用いた景観に依存した耕作放棄地の再生能力の評価)
著者名:埴岡雅史1(現:環境省)、山浦悠一2、先崎理之1(現:国立環境研究所)、山中 聡1(現:森林総合研究所)、河村和洋1、中村太士11北海道大学、2森林総合研究所)
雑誌名:Agriculture, Ecosystems & Environment(農業環境学の専門誌)
DOI:10.1016/j.agee.2018.06.014
公表日:2018年6月26日(火曜日)(オンライン公開)

 

お問い合わせ先

北海道大学大学院農学研究院 教授 中村太士(なかむらふとし)
TEL:011-706-3343 FAX:011-706-3343
メール:nakaf@for.agr.hokudai.ac.jp
URL:http://harunirehp
.wixsite.com/forman

森林総合研究所 森林植生研究領域 主任研究員 山浦 悠一(やまうらゆういち)

(配信元)

北海道大学総務企画部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
TEL:011-706-2610 FAX:011-706-2092
メール:kouhou@jimu.hokudai.ac.jp

森林総合研究所 企画部 広報普及科 広報係
TEL:029-829-8372 FAX:029-873-0844
メール:kouho@ffpri.affrc.go.jp


 

Adobe Readerのダウンロードページへ

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先から無料ダウンロードしてください。

お問い合わせ

所属課室:企画部広報普及科

〒305-8687 茨城県つくば市松の里1

電話番号:029-829-8372

FAX番号:029-873-0844

Email:kouho@ffpri.affrc.go.jp