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プレスリリース

2018年12月28日

京都大学
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所

カメムシの卵が一斉に孵化する巧妙なメカニズムを発見 ―ある卵が割れた振動を合図にきょうだいの卵が孵化する―

概要

動物の群れでは、ある個体の行動が周りに影響して群れ全体が一斉に行動を起こすことがあります。同じようなことが、鳥やカメ、昆虫などが一つの場所にかためて産んだ卵の集まりにおいても起こり、卵が一斉に孵化する例のあることが知られています。こうした例では、卵の殻を隔てて子から子へ何らかの情報が伝わっていますが、多くの場合その情報が何なのかはわかっていません。
京都大学大学院理学研究科 沼田英治 教授、遠藤淳 同研究員、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 高梨琢磨 主任研究員、向井裕美 同研究員の研究グループは、国内で広く見られるクサギカメムシにおいて、卵塊中のある卵が孵化を始めて殻が割れた瞬間、発生した振動が周りに感じとられ、一斉に孵化が起こることを発見しました。本研究グループはまず、レーザドップラ振動計を用いて卵が割れる瞬間の短いパルス状振動を記録しました。続いて、記録した振動を人工的に再現して孵化前の卵に与える実験を行い、この振動に速やかな孵化を促す効果があることを確認しました。卵が割れる振動に反応するという、一斉孵化の単純で巧妙なメカニズムが示されたのは初めてのことです。
本成果は2018年12月28日、米国の国際学術誌「Current Biology」のオンライン版に掲載されます。

クサギカメムシと卵塊の写真と、殻が割れた振動を合図している図
図.クサギカメムシの卵塊では、一つの卵が孵化を始めて殻が割れた振動を合図に一斉に孵化が起こる。

背景

卵を産む動物の多くでは、母親は一か所に複数卵をまとめて産み、きょうだいのグループを作ります。その中ではしばしば、孵化直後のきょうだい間の関係性が重要になります。例えば、きょうだいと連れ立って餌場に移ったり、きょうだいの間で資源をめぐって競争になったりすることがあります。これらの場合、他のきょうだいから遅れて孵化するのは生存上都合がよくありません。そのため幅広い動物の孵化前の子が、自分の孵化のタイミングを調整してきょうだいに近づけ、一斉孵化するしくみを持っています。
孵化タイミングをきょうだいに近づけるには、きょうだいがいつ孵化するかを「知る」ことが欠かせません。そこで、卵の殻という壁があるにもかかわらず、どのようにしてそれを成し遂げるのかは関心を集め、いくつかの動物で調べられてきました。ある種の鳥やワニでは、孵化直前のきょうだいの鳴き声を孵化の時期を示す情報として利用しています。また、きょうだいの動きによって生じた振動も情報になり得ます。カメやバッタを用いた研究では、適当な振動刺激を与えると孵化が早まることが示されています。しかし、孵化前後の小さな子が出した振動のうち、どれが実際に卵の中で感じとられるのかということまで明らかにした例はありません。
国内で広く見られるクサギカメムシでは、卵は卵塊として30個程度まとめて葉の表面に産みつけられます。本研究グループの一部のメンバーは以前、この卵塊が10~15分ほどの非常に短い時間で一斉孵化することを報告しました。また、卵塊を一卵ずつに隔離すると全体の孵化に長い時間を要することから、卵塊が一斉孵化するのは、先に孵化する子から伝わった情報を合図に、まだ孵化していなかった子がただちに孵化を始めた結果ではないかと考えられました。ここで合図として使われる情報として有力なのは、卵どうしの接着点を通って伝わる振動です。本研究はクサギカメムシにおいて、卵の中の子がどのような振動によってきょうだいから情報を得るのか解明することを目指しました。

研究手法・成果

本研究グループが着目したのは、孵化を始めたきょうだいが「卵を割った」振動です。カメムシの卵は鳥の卵とは違った割れ方をします。卵には缶詰めと同じような蓋があり、中の子はその縁を割って蓋をはずすのです。カメムシの子が卵の蓋を割る過程は、「昆虫記」で有名なファーブルが100年以上前に観察しており、頭にかぶった「とんがり帽子」のような構造が鍵になると書き残しています。この構造は力を頂点に集中させ、蓋の縁の一点を最初に割る役割を担うものです。クサギカメムシでは、この「とんがり帽子」によって加えられた力で蓋が勢いよく割れるので、何らかの振動が発生し近くの卵に伝わると予想されました。
本研究グループはまず、隣接した2卵を使用し、一方の卵で発生した卵が割れる振動を、他方の卵においてレーザドップラ振動計で記録しました。8例が記録され、持続時間が0.003秒という非常に短いパルス状振動が隣接する卵に伝わることが判明しました。続いて記録された振動を、振動を発生させる加振器という装置を用いて再現し、孵化前の卵に与える実験を行いました。卵が割れる振動を与えると、卵が15分以内に孵化する割合が増加したことから、卵が割れる振動には速やかな孵化を促す効果があると結論されました。

<参考図>
本研究の実験手法、参考図

参考図:本研究の実験手法
上:卵が割れた際に生じた振動が隣接する卵にどのように伝達するか、レーザドップラ振動計を用いて計測した。
下:加振器を使用して卵が割れる振動を再現し、孵化前の卵に与えた。

波及効果、今後の予定

本研究により、きょうだいが卵を割る振動に反応するという一斉孵化の単純で巧妙なしくみが初めて示されました。カメムシの中には、クサギカメムシとは一斉孵化の様子が異なる種があることがわかっています。卵の割れる振動が、それらの種でも合図として使われているか、それとも他の振動が使われているかは、今後調べる価値がありそうです。同様の問いかけがさまざまな動物で行われ、きょうだいの振動による一斉孵化について広く研究が進むことが期待されます。その上で、本研究で採用された、レーザドップラ振動計による振動の記録と加振器による再現を組み合わせた実験手法は有用だと思われます。また、クサギカメムシが振動に反応することで遅れずに孵化するしくみは、先に孵化した子から共食いされるのを免れるためのものと考えており、それを証明する研究を開始しています。クサギカメムシは日本を含む東アジアで農業害虫・衛生害虫として問題視されてきた種で、近年ではヨーロッパや北アメリカに侵入して深刻な害をもたらしているため、その効率的な防除が強く望まれています。本研究で明らかになった行動のしくみが、防除方法開発の基礎となることを期待しています。

研究プロジェクトについて

本研究プロジェクトは、京都大学と国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の研究者が連携して行いました。外部からの資金的援助は受けていません。

<研究者からのコメント>
クサギカメムシは秋遅くには人家に侵入するので喜ばれませんが、とても身近な昆虫です。繁殖は主に森林で行われますが、庭木に産みつけられて孵化した卵塊を見かけることもあります。卵の殻が割れるというささいな振動に反応してきょうだいが孵化するというのは驚くべきことです。私たちの身の回りでも、このようなメカニズムで一斉孵化が起こっています。

論文タイトルと著者

タイトル:Egg cracking vibration as a cue for stink bug siblings to synchronize hatching.(卵が割れる振動はカメムシのきょうだいが孵化を同期させるための手がかりになる)

著者:遠藤淳・高梨琢磨・向井裕美・沼田英治

掲載誌:Current Biology 【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.cub.2018.11.024 

 

お問い合わせ

沼田 英治(ぬまた ひではる)
京都大学大学院理学研究科生物科学専攻・教授

高梨 琢磨(たかなし たくま)
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 森林昆虫研究領域 主任研究員

(報道・広報に関すること)
京都大学総務部広報課 国際広報室
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国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 企画部 広報普及科
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