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プレスリリース

2019年1月23日

京都大学
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所

乾燥を受けた樹木が枯死に至る生理過程を解明 ―地球温暖化の森林への影響を高精度に予測する道を開く成果

概要

京都大学生態学研究センター 石田厚 教授、京都大学大学院理学研究科 甲野裕理 修士課程学生(研究当時、現:株式会社ウィル)、才木真太朗 同博士課程学生(研究当時、現:森林研究・整備機構森林総合研究所 研究員)、京都大学地球環境学堂・農学研究科 檀浦正子 助教、森林研究・整備機構森林総合研究所 矢崎健一 主任研究員らの研究グループは、世界自然遺産である小笠原諸島にて、乾燥によって樹木がどのように死んでいくのか、その生理過程を明らかにしました
近年、世界の各地で熱波や乾燥による樹木枯死や森林衰退が相次いで報告でされています。これは地球温暖化による気候変動のためと考えられています。将来の森林生態系の変化や、その保全を図るためには、樹木がどのように乾燥による障害を受け、枯死していくのかを明らかにする必要があります。この研究では、衰弱初期には樹木体内での水の通道性が悪くなり、最後には糖が欠乏して枯死していくことを明らかにしました。さらにその衰弱過程で、糖の輸送障害により、特に幹基部で糖が蓄積していくといった症状を呈することも明らかになりました。
本研究成果は、2019年1月7日に、国際学術誌「Communications Biology」のオンライン版に掲載されました。

背景

近年の温暖化等による夏の熱波や乾燥期間の長期化から、樹木の乾燥枯死や森林の衰退、さらに大規模な森林火災が世界各地で報告されるようになってきました。加えて、地球温暖化に伴い多くの地域で降水量の変動が大きくなると予測されています。このような降水量変動や乾燥に対し、樹木や森林がどのような障害を受けていくかを予測することが、世界的にも重要で緊急な課題になっています。

研究手法・成果

小笠原の兄島にて、外来種の植物であるランタナ群落を駆逐したあと、その跡にできた裸地にウラジロエノキ(小笠原の在来種)の種子が一斉に発芽し、稚樹が生育してきました。その結果、多くの同じ年齢のウラジロエノキの樹木個体を多数得ることができました。小笠原は比較的降水量が少なく乾燥しやすい場所です。そこで、同じ年齢のウラジロエノキ290個体をマークし、乾燥に対する反応を1年間追跡調査しました。その結果、乾燥ストレスを強く受けた個体ほど、多くの落葉により個体の葉量も減少し、1年間の成長率も低くなり、死亡率も増加しました。そこで樹木個体の葉量(乾燥ストレス障害の指標)に対する、樹体内の水の通りやすさや糖輸送能力、材の中に蓄積されている糖量の変化を調べました。乾燥ストレスの障害が進むと、初期には水を通す管である道管の水切れが進むことで枝の通水障害を示し、また葉の気孔開度や光合成が低下していきました。道管の水切れが進むと樹体内にあるデンプンが可溶性糖に変換されましたが、一方降雨などによって道管の水切れが回復すると可溶性糖がまたデンプンに変換されるといった、樹体内で糖の可逆的な変化が見られました。また樹体内での糖輸送も阻害され、乾燥ストレスによる障害が進むほど、特に幹基部の材の中に糖が蓄積していきました。その後さらに乾燥障害が進むと、呼吸などにより蓄積された糖も消費されて枯渇し、最後には枯死に至る、という生理過程が明らかになりました。

図1:樹木の大量乾燥枯死の写真
図1:この研究をするきっかけとなった小笠原の固有種の樹木の大量乾燥枯死(共著者である山形大学大学院農学研究科 吉村謙一 准教授による撮影)

図2:乾燥によって樹木が枯死に至る生理過程の模式図
図2:乾燥によって樹木が枯死に至る生理過程の模式図。HVは個体の葉量の指標(辺材面積と葉量の比)

波及効果、今後の予定

近年、世界各地で、夏の熱波や異常乾燥のニュースが飛び込んで来ることが多くなっていると皆さんも感じていると思います。さらに異常乾燥は、時には大きな森林火災なども引き起こします。このような異常気象は、自然の生態系に大きな被害を与え、我々人類の生活をも脅かしています。それは我々の生活が、自然から得られる様々な資源によって支えられているからです。温暖化の影響を予測し、それに対する対策を練っていくためには、我々の生活を見直すとともに、基礎的な研究が不可欠です。本研究で提唱された樹木の乾燥枯死の新たな生理メカニズムに基づいて、様々な樹種で乾燥枯死のしやすさを明らかにしていくことで、地球温暖化による森林への影響予測の精度を高めていくことができるでしょう。

研究プロジェクトについて

本研究は、科研費18H04149(代表 石田厚)、15K00625(代表 相川真一)などからの助成を受けて行われました。

<研究者のコメント>
今まで樹木の乾燥枯死について、樹体内を水が通りにくくなる「通水欠損仮説」と、糖が欠乏して飢餓状態になる「糖欠乏仮説」が並び立ち、それぞれ科学的な証拠を持って唱えられてきました。それぞれの仮説が科学的な証拠を持って示されているのも不思議でしたが、樹木の乾燥枯死過程を詳細に調べた本研究によって、初期の障害には通水欠損が生じ、後期には糖欠乏が起きるといった、二つの障害が段階的に枯死に関与していることが明らかになりました。また乾燥ストレスによる障害が起きると、樹体内で糖が一時的に蓄積し、その後低下を始める頃にはもう枯死に向かっている、といった糖の蓄積量が変化することは面白い発見でした。

論文タイトルと著者

タイトル:Initial hydraulic failure followed by last-stage carbon starvation leads to drought-induced death in the tree Trema orientalis(ウラジロエノキは乾燥を受けると、初期は通水欠損から始まり後期は糖欠乏によって枯死に至る)

著者:Kono Y., Ishida A., Saiki S.-T., Yoshimura K., Dannoura M., Yazaki K., Kimura F., Yoshimura J. and Aikawa S.

掲載誌:Communications Biology DOI:10.1038/s42003-018-0256-7

 

お問い合わせ

石田 厚(いしだ あつし)
京都大学生態学研究センター・教授

矢崎 健一(やざき けんいち)
森林総合研究所・主任研究員

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