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プレスリリース

2019年9月17日

国立大学法人 東京農工大学
国立研究開発法人 国立環境研究所
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所

ビビりなやつほど生き残る!? 外来マングースによって在来カエルの逃避行動が急速に発達! ~外来種による在来種への影響の新たな側面~

ポイント

  • 外来マングースの影響を受けた地域のカエルは、他地域と比べていち早く逃げ出すようになった。
  • 外来マングースによって、わずか数十年の間にカエルの逃避行動が急速に進化した可能性。
  • 外来種は在来種を減少させるだけではなく、行動という性質も変える。

概要

東京農工大学、国立環境研究所、森林総合研究所の研究グループは、奄美大島において、絶滅危惧種アマミハナサキガエル(図1a)(以下、「カエル」という)の逃避行動が、侵略的外来種であるフイリマングース(以下、「マングース」という)(図1b)によって、わずか数十年の間に急速に発達し、その変化はマングースを駆除しても戻らない事を明らかにしました(図2)。これは、マングースによってカエルの逃避行動が急速に進化した可能性を示しています。外来種は在来種の数を変えるだけではなく、行動という性質も変える事が明らかになりました。
本研究結果は、イギリスのロンドン動物学会発刊 Journal of Zoology誌(9月9日付(イギリス時間))に掲載されました。

図1.(a)アマミハナサキガエルと(b)フイリマングースの写真
図1(a)アマミハナサキガエル(撮影:論文著者):奄美大島および徳之島のみに生息する在来種。環境省レッドリスト絶滅危惧種II類、県の天然記念物に指定されている希少種。
(b)フイリマングース(撮影:小原祐二氏):南アジア原産。世界各地に導入され、在来生態系に深刻な影響を与えている。世界の侵略的外来生物ワースト100に指定。

研究背景

島の在来種は元々捕食者がいないため、“逃げる”という事をあまり行わず、新たに侵入してきた外来の捕食者に簡単に食べられてしまう事が知られています。その中でも、逃げない個体が食べられやすく、少しでも逃げる個体が生き残りやすいと考えられます。これは、逃げやすいという性質が世代を超えて受け継がれていく可能性がある事を意味します。このことから、外来捕食者の強い影響を受けた島の在来種は、個体の学習ではなく、集団の進化として逃避行動を発達させる事が予想されます。しかしこれまでは、外来種の在来種への影響として、個体数への影響のみが注目され、行動などの性質への影響はほとんど知られていませんでした
奄美大島に1979年に導入されたマングースは、島全域には拡大しなかったものの、導入地点に近い地域では多くの在来種を減少させました。その後、2000年に始まった環境省の駆除活動によってほとんどのマングースが駆除されましたが、もし在来種の逃避行動が進化したのであれば、マングースがいなくなっても、その変化が持続している事が予想されます。これらの予想を検証するため、著者らは、2013年8月-10月にマングースの影響(マングース導入地点からの距離)が異なる地域において、人がどこまで接近すればカエルが逃げ出すかという“ビビり”な程度(逃避開始距離:動物の逃避行動を評価する際に用いられる手法)を計測しました(図2)。

図2.研究の概要
図2 研究の概要

研究成果

その結果、マングースの導入地点から近く、マングースの影響が強かった地域に生息するカエルは、影響の弱かった地域と比べて、すぐに逃げ出す事が明らかになりました(図3)。これは、マングースによる強い影響により、わずか数十年の間にカエルの逃避行動が発達した事を示しています。また、この調査を行った時点では、環境省によってほとんどのマングースが駆除されていました。このことから、マングースがいなくなっても、一度発達した逃避行動はすぐには戻らない事が示されました。このカエルの寿命が3、4年であることを考えると、マングースによってカエルの逃避行動が十数世代というわずかな間に急速に進化し、世代を超えて受け継がれた可能性を示す結果です。外来種は在来種を減らすだけではなく、行動という性質も変化させる事が示されました(図4)。
図3.逃避開始距離とマングースの影響との関係図

図3 ビビり度(逃避開始距離)とマングースの影響(マングース導入地点からの距離)との関係図。
マングースの影響が強かった地域では、逃避行動が発達している事が明らかになりました。

 

図4.逃避行動が発達すると想定されるプロセスと観察結果
図4 逃避行動が発達すると想定されるプロセス(a)と観察結果(b)

今後の展開

外来種による在来種の減少についてはとても多くの報告がありますが、行動といった性質への影響はほとんど知られていません。この“性質への影響”という新しい視点で外来種と在来種の関係を見てみると、他の多くの生物でこれまで知られていなかった影響が明らかになると考えられます。例えば、外来種によって形態や運動機能、生理機能といった他の性質も変化する可能性があります。さらに、性質の変化が他の生物に影響を与えるかもしれません。例えば、行動の変化によって餌を捕る場所が変わる場合、餌の生物への影響が変わることになります。性質の変化という視点から評価する事で、外来種による在来種への影響の大きさ、幅広さを適切に理解することが出来ると期待されます。

論文

論文名:Rapid behavioural responses of native frogs caused by past predation pressure from invasive mongooses(外来マングースの過去の捕食圧による在来カエルの急速な行動変化)

著者名:Hirotaka Komine, Keita Fukasawa, Munemitsu Akasaka, Yuya Watari, Noriko Iwai, Koichi Kaji(小峰浩隆、深澤圭太、赤坂宗光、亘悠哉、岩井紀子、梶光一)

掲載誌:Journal of Zoology
URL:https://zslpublications.onlinelibrary.wiley.com/journal/14697998

【研究体制】
本研究は、国立大学法人東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院の小峰浩隆特任助教、農学研究院の梶光一名誉教授、赤坂宗光准教授、岩井紀子准教授、国立研究開発法人国立環境研究所の深澤圭太主任研究員、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の亘悠哉主任研究員らの研究グループによって行われました。本研究は公益信託増進会自然環境保全研究活動助成基金、JSPS科研費15J08743の助成を受けたものです。

 

お問い合わせ

研究担当者:
国立大学法人 東京農工大学大学院 グローバルイノベーション研究院 小峰浩隆 特任助教
国立大学法人 東京農工大学 梶光一 名誉教授
国立研究開発法人 国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 生物多様性評価・予測研究室 深澤圭太 主任研究員
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 野生生物研究領域 亘悠哉 主任研究員

広報担当者:
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372 E-mail:kouho@ffpri.affrc.go.jp


 

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