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プレスリリース

2020年4月8日

兵庫県立大学
人と自然の博物館
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
神奈川大学
長野県

シカの侵入を防ぐ柵(防鹿柵)の設置は草原の植物や昆虫の多様性を回復させることを解明

概要

中濵直之 兵庫県立大学自然・環境科学研究所講師 兼 兵庫県立人と自然の博物館研究員、内田圭 東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教、小山明日香 国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所主任研究員、岩崎貴也 神奈川大学理学部生物科学科特別助教、尾関雅章 長野県環境保全研究所主任研究員、須賀丈 長野県環境保全研究所自然環境部長らの研究グループは、シカの侵入を防ぐ柵(防鹿柵)を設置することで、草原内の開花植物や昆虫(チョウとマルハナバチ)の多様性が回復することを明らかにしました。
近年、ニホンジカの全国的な増加に伴う植生の破壊により、全国各地で植物や昆虫の多様性が減少傾向にあります。こうしたシカの多い地域における生物多様性の保全は喫緊の課題です。本研究では、比較的大規模な防鹿柵が設置されている長野県霧ヶ峰の草原において、柵の設置による開花植物やチョウ、マルハナバチの多様性の回復効果を検証しました。その結果、柵の設置により開花植物の種数、また花に依存するチョウやマルハナバチの種数と個体数が大きく回復していました。
本研究は、草原の生物多様性の保全のために防鹿柵設置が有効であることを示した重要な成果といえます。防鹿柵を日本各地の草原に設置することで、多くの草原の生物多様性が保全されることが期待されます。
本研究成果は2020年4月8日20時に、国際科学誌「Biodiversity and Conservation」の電子版に掲載されます。

 

背景

近年のシカの全国的な増加により、生物多様性の減少が全国各地で問題となっています。特に半自然草原(※1)は近年では非常に貴重な生態系であり、こうした生態系における生物多様性の保全は極めて重要な問題といえます。
シカによる生態系被害は、シカの餌となる植物だけにとどまらず、植物の花を利用するチョウやマルハナハチ(※2)などといった訪花昆虫にも及びます。もしこうした訪花昆虫が減少すると、花粉の送受粉がうまくいかず植物の繁殖に悪影響が生じるおそれがあります。そのため、生物多様性を持続的に保全するためには植物だけでなく、訪花昆虫も同時に守る必要があります。
シカによる生態系被害への対策の一つが、シカの侵入を防ぐ柵(防鹿柵,図1)の設置です。近年のシカの増加に伴い、全国各地で防鹿柵が設置されています。こうした防鹿柵による生物多様性の保全効果については検証がなされているものの、その多くが森林生態系における研究であり、草原生態系での保全効果はよくわかっていませんでした。
本研究を実施した長野県霧ヶ峰は、ゼンテイカ(ニッコウキスゲ)などの野生植物が貴重な観光資源となっていましたが、2000年代よりシカが増加し、こうした植物が急激に減少しています。そこで、2008年ごろから防鹿柵が設置されはじめ、現在では総面積27ha(近隣の八島ヶ原湿原を除く)と、国内でも有数の規模で防鹿柵が設置されています。

図1 霧ヶ峰に設置させている防鹿柵の写真
図1 霧ヶ峰に設置されている防鹿柵。柵内(奥)はシカが侵入できず、多くの花が見られる。一方、柵外(手前)にはほとんど花が見られない。

結果

本研究では、長野県霧ヶ峰において、防鹿柵の内外で開花植物の種数、チョウとマルハナバチの種数と個体数を比較し、柵の設置による多様性の回復効果を検証しました。現地調査は、2017―2018年の6月と8月に実施しました。調査の結果、シカが侵入できない柵の内側では柵の外側よりも開花植物の種数、チョウとマルハナバチの種数・個体数ともに多い傾向にありました(図2)。2000年代のシカの増加の際にはこうした生物の減少が問題となっていましたが、その後の防鹿柵の設置により開花植物や訪花昆虫が回復したことを示しています。また、開花植物の種数が増加するほど、チョウやマルハナバチの種数が増加することから、こうした訪花昆虫の多様性を維持するためにはより多くの開花植物の保全が重要であることが示されました。

図2 防鹿柵内 (白色) と柵外 (灰色) の開花植物や昆虫などの種数の違いを示す図
図2 防鹿柵内(白色)と柵外(灰色)における開花植物、チョウ類、マルハナバチ類の種数の違い。マルハナバチは6月には見られなかったので、8月のみのデータ。いずれの時期でも、防鹿柵の外側よりも内側で種数が多い。

波及効果

本研究は、半自然草原の生物多様性を保全するために、防鹿柵の設置が非常に重要であることを示した、国内では数少ない成果です。本研究を実施した長野県霧ヶ峰における今後の生物多様性の保全にとって重要な指針となるだけでなく、日本各地に点在し、シカの被害に悩む草原における生物多様性の保全にも実践上の示唆をもたらすものといえます。

研究プロジェクトについて

本研究は、公益財団法人自然保護助成基金第28期(2017年度)プロ・ナトゥーラ・ファンド助成による支援を受けました。

用語解説

(※1)半自然草原
火入れや草刈りなど、人間活動の影響を受けて維持される草原を指します。日本のような温暖湿潤な地域ではこうした撹乱がないと徐々に森林に移り変わるため、草原の維持のためには火入れや草刈りなどが必要です。半自然草原は、資源利用の変化により過去約100年間に急減しており、現在残るのは国土面積の約1%とされています。

(※2)マルハナバチ
膜翅目(ハチ目)ミツバチ科のうち一部を占めるグループです。効率的に花粉を送受粉できることから、多くの植物の繁殖にとって重要な役割を担っています。

論文情報

【タイトル】
Construction of deer fences restores the diversity of butterflies and bumblebees as well as flowering plants in semi-natural grassland
(防鹿柵の設置は、半自然草原の開花植物、チョウ、マルハナバチの多様性を回復させる)

【著者】
Naoyuki Nakahama, Kei Uchida, Asuka Koyama, Takaya Iwasaki, Masaaki Ozeki, Takeshi Suka (中濵直之、内田圭、小山明日香、岩崎貴也、尾関雅章、須賀丈)

【雑誌・号・doi】
Biodiversity and Conservation
号:電子出版のため未定
doi:10.1007/s10531-020-01969-9

 

 

お問い合わせ

研究担当者:
兵庫県立大学自然・環境科学研究所 講師
兵庫県立人と自然の博物館 研究員 中濵 直之
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 生物多様性研究拠点 主任研究員 小山明日香

広報担当者:
森林総合研究所 広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mailkouho@ffpri.affrc.go.jp


 

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