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プレスリリース

2020年11月26日

国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所

植物の多様性は水危機に強い土地をつくる ―大陸などにおける大規模な単一種農林業から生じる水循環単純化の危険性への提言―

ポイント

  • 炭素吸収や食料生産の増大を満たすための大陸などにおける大規模な単一種農林業の拡大が、蒸発散や地下水涵養などの水循環プロセスの単純化を招く危険性について提言しました。
  • 水循環の単純化によって、環境変化に対する水供給の安定性が低下し、突発的な豪雨や干ばつ等の極端な気象に対して脆弱になると考えられます。
  • 水危機に対する回復力を維持出来る土地管理のためには、植物の多様性と水循環機能の相互関係を明らかにする研究が必要であることを提言しました。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は、デラウェア大学、サスカチュワン大学等をはじめとする、9か国18機関と共同で「水危機から世界を救うために生態水文学は何ができるか?」を議論し、以下のような提言を行いました。
現在、主に熱帯や大陸の森林では、自然植生からの大規模な土地利用改変が行われており、数十万haを超えるような面積での単一種農林業の拡大が進んでいます。このような大面積の植物の多様性の喪失は、植物による蒸発散、雨水の地表までの移動経路、及び地下水の涵養(かんよう)といった水循環プロセスを、単純化してしまいます。その結果、環境変化に対する水供給の安定性が低下し、結果として干ばつや豪雨のような極端な気象に対して脆弱になります。このような問題を解決するためには、土地利用や土地被覆の大規模改変による植物の多様性の喪失が水循環に与える影響について研究を進め、種の多様性や水循環と植生の相互作用を考慮した農林業を推進する必要があります。
本研究成果は、2020年9月21日にNature Geoscience誌で公開されました。

背景

世界で水危機が進む中で、国連は2018年から2028年を「持続可能な開発のための水」に関する国際行動の10年と宣言しました。同様に、国際水文科学協会は、2013年から2022年を「Panta Rhei ― 万物流転」の科学の10年と定め、人間が水循環に及ぼす影響に関する水文科学的研究を促進しています。
我が国では、人工林を含めた多くの森林が水源涵養を目的とした保安林として指定されるなど、従来、水循環を考慮した森林施業が行われています。その一方で現在、特定の機能(炭素吸収の増加)や産物(食料・水・エネルギーなど)の需要を満たすために、熱帯や大陸で、数十万haを超えるような大規模面積で、森林をはじめとする自然植生から単一樹種のプランテーションや単一農作物の農地のようなモノカルチャーと呼ばれる土地利用形態への転換が地球規模で進んでいます。これは特定の需要を満たす上では有効ですが、一方で、土地被覆の画一化を通じて植物の多様性を失わせるとともに、地球規模の水循環に影響を与えます。例えば、素早い炭素吸収が期待できるユーカリなどの植林地は、より多くの水を消費するため、大規模に植栽するとその地域の水資源に影響を与えかねません。また、湿地を転換して造成された画一的な農地は、しばしば洪水や干ばつの頻発化と大規模化や水質の悪化を招きます。

内容

今回、私たちはデラウェア大学のDelphis Levia教授のリーダーシップの下で議論を行い、大規模面積での植物の多様性の喪失が、水循環の変化を通じて環境変化に対する地球全体の回復力にどのような影響を与えるのかについて、科学的に定量化する必要があることを提言しました。
通常、雨として降った水は、植物を濡らし土壌を湿らせ、一部が蒸発散して大気に戻り、一部は地下水を涵養(かんよう)して、河川へと流出していきます(図)が、その過程では、その土地の植物が水循環をコントロールしています。大規模な土地被覆の画一化は、植物の多様性を喪失させるとともに、水循環のプロセスを単純化し、その多様性を喪失させます。その結果、突発的な豪雨など極端な気象現象や生態系の撹乱に対応できなくなり、環境変化に対する回復力の低下が危惧されます。
これらの問題の解決のためには、種の多様性を高める「スマートデザイン」を取り入れた農林業の推進が考えられます。例えば、機能や形質(葉の厚さ、気孔の開閉能力、根の深さなど)が異なる様々な種を混交して植栽し、水循環プロセスに多様性をもたせる、といった方法が考えられます。

図 自然植生と単作農林業の水の経路の違いの概念図
図 自然植生とモノカルチャー(単作農林業)での水の経路の違いの概念図。
自然植生は植物の多様性が高いため、降った雨の経路(濡れ、蒸発散、土壌中への浸透、地下水涵養、水流出)も多様性が高いのに対し、モノカルチャーでは雨の経路も単純化される。その結果、たとえば渇水期におけるモノカルチャーの環境では地下水位(下の青い円盤)の低下が進み、植物の地下水利用が困難になる。

今後の展開

まずは、画一的な植生への転換の影響を最も受けやすい水循環プロセスをピンポイントで特定するための研究が必要です。近年のセンサ技術の進歩によって、より詳細な環境計測データを得ることができるようになりました。このような実証データが、土地被覆の変化が水循環に与える影響の予測能力を向上させ、地球という惑星全体の回復力を高めていくことに繋がります。自然植生が本来持っている多様な水循環機能に根ざした回復力を守り、時には、より高めることで、私たちは地球の限りある水資源を守り育むことができるのです。

論文

タイトル:Homogenization of the terrestrial water cycle(陸域の水循環の均質化)

著者:Delphis F. Levia, Irena F. Creed, David M. Hannah, Kazuki Nanko, Elizabeth W. Boyer, Darryl E. Carlyle-Moses, Nick van de Giesen, Domenico Grasso, Andrew J. Guswa, Janice E. Hudson, Sean A. Hudson, Shin’ichi Iida, Robert B. Jackson, Gabriel G. Katul, Tomo’omi Kumagai, Pilar Llorens, Flavio Lopes Ribeiro, Diane E. Pataki, Catherine A. Peters, Daniel Sanchez Carretero, John S. Selker, Doerthe Tetzlaff, Maciej Zalewski, Michael Bruen

掲載誌:Nature Geoscience、13巻10号(2020年10月)

研究費:UNIDEL Foundation, Inc. and the University of Delaware.

共同研究機関

デラウェア大学(アメリカ)、サスカチュワン大学(カナダ)、バーミンガム大学(イギリス)、ペンシルバニア州立大学(アメリカ)、トンプソン・リバース大学(カナダ)、デルフト工科大学(オランダ)、ミシガン大学ディアボーン(アメリカ)、スミス大学(アメリカ)、スタンフォード大学(アメリカ)、デューク大学(アメリカ)、東京大学大学院農学生命科学研究科、環境評価水資源研究所(スペイン)、ユタ大学(アメリカ)、プリンストン大学(アメリカ)、オレゴン州立大学(アメリカ)、ライプニッツ淡水生態学・内水漁業研究所(ドイツ)、ウッチ大学(ポーランド)、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(アイルランド)

用語解説

1)生態水文学
地球や地域での水循環を対象とする水文学において、生態系の役割を明らかにする研究分野のこと。例えば植物は、土壌に到達する雨の経路や量を変え、根からの吸水を通した蒸散により水移動を変化させます。また、動物や微生物は、その活動により水質を変化させます。

2)単一種農林業
単一樹種のプランテーションや単一農作物の農地のこと。モノカルチャー。

3)植生からの蒸発散
植物表面に付着した水の蒸発と、植物体内の水が水蒸気として大気中に放出される蒸散を合わせたもの。

 

お問い合わせ

研究推進責任者:
森林総合研究所 研究ディレクター ⼤丸 裕武

研究担当者:
森林総合研究所 森林防災研究領域
気象害・防災林研究室 主任研究員 南光一樹
水保全研究室 主任研究員 飯田真一

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.affrc.go.jp


 

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所属課室:企画部広報普及科

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