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プレスリリース

2021年1月19日

国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
国立大学法人筑波大学

核実験由来のセシウム137は半世紀後も森林内に留まっていた

ポイント

  • 森林土壌に含まれる核実験由来の放射性セシウムの量を日本全国の土壌試料を分析して明らかにしました。
  • 1960年前後に森林に降下したセシウム137による空間線量は自然放射線源による空間線量と比較して十分に低い量でした。セシウム137は半減期30.2年の放射性壊変によって約50年後では半分以下に減少し、残りの大半は2000年代後半(2006年から2010年調査時点)においても森林内に留まっていました。
  • 福島原発事故の被災地において、森林流域外へのセシウム137の流出を抑制するためには森林から河川への表土流出を防止することが重要です。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所と国⽴⼤学法⼈筑波⼤学の共同研究グループは、⼤気圏内核実験で放出された放射性セシウム(ここでは、セシウム137、⽤語解説1)の⽇本の森林における残留実態を明らかにしました。
森林に降下したセシウム137は⼟壌粒⼦に吸着されて森林⼟壌の表層部に留まりながら、半減期30.2年の放射性壊変により減少していくと予測されています。降下から⻑期間が経過したセシウム137が実際に森林内に留まっているかどうかを検証するため、1960年前後に森林に降下したセシウム137が約50年後の森林⼟壌にどの程度蓄積しているか調査しました。福島原発事故発⽣の直前に採取し保管されていた全国の⼟壌試料を分析したところ、⼤気圏内核実験で放出されたセシウム137は2000年代後半には放射性壊変によって半分以下となっていますが、残りの⼤半が森林⼟壌に留まっていることが実証されました。
本研究成果は、2020年10⽉5⽇にJournal of Environmental Radioactivity誌でオンライン公開されました。

背景

東京電⼒福島第⼀原⼦⼒発電所の事故(以下、福島原発事故)により放射性物質が降下した地域の約7割は森林に覆われており、今後の森林管理は社会的な関⼼事となっています。森林内におけるセシウム137の動態は1986年のチェルノブイリ原発事故後に広範に研究され、セシウム137は⼟壌粒⼦に吸着されて森林⼟壌の表層部に留まりながら⻑期的には放射性壊変により減少していくと予測されています。しかし、チェルノブイリと⽇本では地形、気候、植⽣などが⼤きく異なり、セシウム137の動態にも違いが⽣じる可能性があります。そこで、約半世紀前(1960年前後)に森林に降下したセシウム137が2000年代後半の森林⼟壌にどの程度蓄積しているか調査し、セシウム137の⻑期的な残留実態を明らかにしました

内容

森林総合研究所では福島原発事故発⽣の直前(2006~2010年)に採取された全国の⼟壌試料を保管しています。本研究では全国の⼟壌調査地点から空間的に均⼀になるように抽出した316地点を対象とし、各地点の複数個所の⼟壌断⾯で採取した3千点以上の表層⼟壌試料の分析から、主に⼤気圏内核実験に由来するセシウム137の森林⼟壌中の現存蓄積量を推定しました(⽤語解説1)。
降下から半世紀が経過したセシウム137の現存蓄積量は放射性壊変によりピーク時蓄積量の半分以下になっており(⽤語解説1)、⽇本の森林域のセシウム137蓄積量の算術平均と標準偏差は2.27±1.73kBq(2008年10⽉1⽇時点、表層⼟壌30cm以内、1平⽅メートルあたり)と推定されました(図1)。これに相当する1ヵ⽉の外部被ばく線量0.0021mSv(成⼈)および0.0027mSv(新⽣児)であり、これは国連「原⼦放射線の影響に関する科学委員会」報告書による値の0.07mSvと⽐べて⾮常に⼩さい値です(⽤語解説2)。
さらに、セシウム137の深度分布を調べると、同じ森林内の繰り返し調査間でも深度分布のパターンが⼤きく異なり、単純に深さ⽅向への浸透だけでは説明できないパターンもみられました。このことは、セシウム137を吸着した表⼟が⼟壌侵⾷などによって局所的に移動していたことを⽰唆しています。
⼀⽅で、今回推定されたセシウム137の蓄積量は、気象庁等が観測した放射性壊変補正後の累積降下量と同程度であり(⽤語解説3)、森林流域外への顕著な流出はなかったことが分かりました。表⼟とともに移動したセシウム137は移動した先の表⼟に取り込まれて、森林内に留まっていたと考えられます。
以上のことより、森林に降下したセシウム137は森林内を移動しつつも、放射性壊変により減少した残りの⼤半は降下から半世紀後も森林内に留まっていると結論づけられました。

福島第一原発事故前における日本の森林域のセシウム137蓄積量を示す図
図1:福島第⼀原発事故前における森林⼟壌(地表から深さ30cm以内)のセシウム137蓄積量の全国分布(◦)。⽇本の森林域のセシウム137平均蓄積量は1平⽅メートルあたり2.27 ± 1.73 kBqと推定された(⽤語解説2)。気象庁等の観測所における累積降下量(□)を重ねて⽰す。

今後の展開

本研究は、⼤気圏内核実験によって森林に降下したセシウム137は、約半世紀の間に放射性壊変により半分以下となっていますが、残りの⼤半は森林内の表層⼟壌に現存することを実証しました。福島原発事故の影響を受けた地域でも、セシウム137はこのような挙動を⽰すと考えられます。しかし、森林流域から表⼟が⼤規模に流出すれば、表⼟に含まれるセシウム137も森林流域外に流出する危険性があります。今後、被災地においては森林流域外への表⼟の流出防⽌に留意した森林管理が⻑期的に必要と考えられます。

論文

タイトル:Global 137Cs fallout inventories of forest soil across Japan and their consequences half a century later(⽇本の森林域に降下したセシウム137蓄積量とその50年後における状況)

著者:Eriko Ito, Satoru Miura, Michio Aoyama, Koji Shichi

掲載誌:Journal of Environmental Radioactivity、225巻106421(2020年12⽉17⽇発⾏)

DOI:10.1016/j.jenvrad.2020.106421

研究費:⽂部科学省科学研究費補助⾦「25292099」

用語解説

1)核実験由来のセシウム137
米国、旧ソ連等の核兵器保有国がかつて⼤気圏内で⾏った核実験で⽣成し、放射線を放出する放射性核種の⼀つ。セシウム137は半減期が30.2年と⻑く、環境影響が⻑期に及ぶ⼀⽅で⻑期的な物質移動の研究にも⽤いられてきました。1950年代後半から1960年代前半にかけて⾏われた⼤規模な⼤気圏内核実験で放出されたセシウム137の量は1960年代初頭に極⼤となりました。核実験で成層圏に達した多量の⼈⼯放射性物質は徐々に対流圏に移⾏し、放射性降下物として地球全体の地表⾯や海⽔⾯に降下しました(グローバルフォールアウト)。⽇本列島周辺は世界の中でも特に降下量が多いことが知られています。地表におけるセシウム137の蓄積は1960年代後半に最⼤となり、その後は主に放射性壊変により減少しました。2008年10⽉1⽇時点での理論値は最⼤時の45%程度となります。なお、福島原発事故の発⽣以前における⽇本の森林⼟壌には、1986年のチェルノブイリ原発事故によって放出されたセシウム137も蓄積していました。チェルノブイリ原発事故由来のセシウム137降下量は2008年10⽉1⽇時点におけるセシウム137蓄積量の3%弱を占めると推定されます。

2)⽇本の森林域のセシウム137蓄積量の平均値2.27kBq(2008年10⽉1⽇時点、表層⼟壌30cm以内、1平⽅メートルあたり)に相当する1ヵ⽉の外部被ばく線量の計算においは、セシウム137の外部被ばく換算係数として1.28E-06 mSv/h per kBq/m2(成⼈)および1.67E-06 mSv/h per kBq/m2(新⽣児)を⽤い、放射線源であるセシウム137が⼟壌の最表層に分布していると仮定しました。なお、国連「原⼦放射線の影響に関する科学委員会」報告書の⾃然放射線源からの年間実効線量の1ヵ⽉あたりの値である0.2mSvのうち外部被ばく分は0.07mSvです。

3)森林⼟壌内のセシウム137蓄積量と気象観測所における累積降下量の⽐較⽅法
1950年代後半以降、⽇本各地の気象台や地⽅⾃治体で放射性降下物量が継続測定されてきました。本研究ではセシウム137の⽉間降下量から半減期を補正した値を累計して2008年10⽉1⽇時点におけるセシウム137累積降下量を求めました。⽇本列島周辺における放射性降下物量は空間変動が⼤きいことが知られています。またグローバルフォールアウトの累積降下量は全球的には年間降⽔量にほぼ正⽐例しますが、⽇本ではその関係に著しい地域間差があります。調査・観測地点が異なる森林⼟壌のセシウム137の蓄積量と累積降下量を適切に⽐較するため、降⽔量と地域間差を調整する処理を施しました。降⽔量と地域間差を調整した森林⼟壌のセシウム137蓄積量の平均値(最⼩⼆乗平均値と標準誤差)は2.08±0.09kBq(2008年10⽉1⽇時点、表層⼟壌30cm以内、1平⽅メートルあたり)であり、同じく降⽔量と地域間差を調整した累積降下量の最⼩⼆乗平均値と標準誤差は2.63±0.34kBqでした。

 

お問い合わせ

研究担当者:
森林総合研究所 北海道⽀所 植物⼟壌系研究グループ
主任研究員 伊藤江利⼦
森林総合研究所 震災復興・放射性物質研究拠点
研究専⾨員 三浦 覚

筑波大学 アイソトープ環境動態研究センター
客員教授 ⻘⼭道夫

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.affrc.go.jp


 

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所属課室:企画部広報普及科

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