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プレスリリース

2021年3月17日

農研機構
森林総合研究所

チャバネアオカメムシが振動に対する感受性を持つことを解明 ―振動で果樹カメムシを防除する技術開発への第一歩―

果樹害虫のチャバネアオカメムシが振動に対して感受性を持つことを、初めて解明しました。カメムシは、振動に対して「停止する」「伏せる」「歩きだす」「足踏みする」等の行動を示し、特に150Hzや500Hz等の低い周波数1)に対して高感度に反応しました。本成果により、人為的な振動によるカメムシの行動制御の可能性が示されました。振動によってカメムシを追い払う物理的防除技術を開発する第一歩となります。

概要

チャバネアオカメムシは、果樹の主な害虫であり、防除のために殺虫剤散布が行われています。カメムシの発生量が多い年には、残効性が長く対象範囲の広い殺虫剤を数回散布する必要が生じるため、生産者への負担となっています。このような殺虫剤の多用は、天敵2)を殺してしまい他の害虫が大発生する要因になるとともに、殺虫剤の効かない害虫を生み出すことにもつながります。また農薬使用量の削減は環境負荷低減のためにも重要です。そこで、農研機構と森林総合研究所は、殺虫剤だけに頼らない新たな防除法の開発を進めています。
今回、振動発生装置を用いて様々な条件の振動をカメムシに与えて、反応を観察しました。その結果、カメムシは、振動に対して「停止する」「伏せる」「歩きだす」「足踏みする」等の行動を示し、特に150Hzや500Hz等の低い周波数に対し感受性を持つことが明らかになりました。
本成果から、振動によってカメムシを追い払うという、これまでになかった新しい物理的防除技術の可能性が見えてきました。

関連情報

予算:内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産創造技術」(H26~28)、イノベーション創出強化研究推進事業「害虫防除と受粉促進のダブル効果!スマート農業に貢献する振動技術の開発」(R2~4)
特許:特開2018-093831

開発の社会的背景

チャバネアオカメムシ(写真1)は、日本に広く分布する農林害虫です。果樹園に飛んできて果実の汁を吸って傷つけ、時に大発生して大きな被害を及ぼします。カンキツ類、リンゴ、ナシ、カキ等々多岐にわたる果樹が被害の対象となり、また、スギ・ヒノキ等の針葉樹の種子害虫でもあります。山林で繁殖し、不定期かつ断続的に果樹園に飛来するため、防除のために、果樹園では発生予察3)に基いて殺虫剤が散布されます。殺虫剤の使用を低減するため、予察の精度を高めたり、天敵の利用を検討する等の研究が行われています。また、赤色防虫ネットや超音波防除装置等の資材や装置等を用いた物理的な防除技術についても、開発のニーズが高まっています。

写真1 果樹の主な害虫
写真1 チャバネアオカメムシ成虫

研究の経緯

多くの昆虫が、コミュニケーションの手段として、振動の情報を用いていることが明らかになってきています。そこで、人為的な振動によって、害虫の行動に影響を及ぼして防除するという方法が、ブドウ害虫のヨコバイやトマト害虫のコナジラミで提案されるようになってきました。
そこで今回、果樹園に飛来するチャバネアオカメムシに対して、振動による防除の可能性を検討しました。

研究の内容・意義

1.まず、小規模の実験として、実験室内で市販の小型加振機4)を用いて成虫に振動(周波数は50~1,000Hz)を与えました。その結果、振動に対して、カメムシは、「停止する(立ち止まる)」「伏せる(腰を曲げ姿勢を低くする)」「歩き出す」「足踏みする(前脚を交互に上げ下げする)」という反応を示しました(図1)。このうち、停止する、伏せるといった反応は、カメムシの行動を抑制していると考えられ、果実被害をもたらす吸汁行動も阻害できる可能性が考えられます。一方、歩きだすという反応からは、振動から逃げようとして木から飛び去る(つまり、追い払う)可能性が期待できます。特に150Hzや500Hz等の低い周波数において、カメムシは微小な振幅の振動(加速度0.02m/s2程度)に対しても反応したため、この周辺の周波数に対する感受性が高いことが分かりました。

小型加振機を用い、成虫に振動を与えた結果を示した図
図1 振動に対するチャバネアオカメムシの反応

2.次に、もう少し大きな木を用いた実験を行いました。網室に地植えされた樹高約2mのカボス樹に、振動装置の試作機を設置しました(写真2)。試作機には、大きな振動を発生できる超磁歪素子(ちょうじわいそし)5)という素材を用いました。試作機で100Hzの振動を与えたところ、100Hzに加えて、200Hz等の整数倍につながる周波数が計測されました。樹が振動すると、カボス樹上のカメムシは、室内実験の時と同様に「立ち止まる」「歩き出す」等の反応を示しました。

樹高約2mのカボス樹に、振動装置の試作機を設置
写真2 超磁歪素子(ちょうじわいそし)を用いた振動発生装置の試作機

3.さらに、試作機を、分岐具を介してみかんの苗木4本とつないで振動させました。いずれの苗木でもカメムシは反応し、複数の木を同時に振動できる可能性が示されました。

4.これらの実験により、チャバネアオカメムシが振動に対して感受性を持つことを初めて解明しました。すなわち、振動によってカメムシの行動を制御し、ひいては果樹に飛来するカメムシを追い払う可能性(図2)を見出すことができました。

人為的な振動によるカメムシの行動制御の可能性が示されたイメージ図
図2 チャバネアオカメムシを追い払うイメージ図

今後予定・期待

本成果により、振動によってカメムシを追い払う可能性が示されました。振動による防除ができれば、殺虫剤の散布回数の減少が期待でき、生産者や環境への負担も少なくなり、持続的な果樹栽培に貢献できる技術になると考えます。チャバネアオカメムシは日本全国に分布し、多岐にわたる果樹を加害するため、振動を用いた防除技術の利用場面は広いと考えられます。
今後は、振動によるカメムシ防除技術の実用化を目指し、被害の軽減程度や、振動が樹体や果実の品質等に及ぼす影響について検証を行います。振動装置の開発も重要であり、
現在製品化に向けて共同開発に取り組んでいます。

用語解説

1)周波数:1秒間に繰り返される波の数です。単位はHz(ヘルツ)です。

2)天敵:害虫に寄生したり捕食したりして、害虫の数を抑える(減らす)はたらきをもつ昆虫類や微生物のことです。

3)発生予察:病害虫の発生が多くなる時期や、適切な防除をするのに必要な情報を広く提供するため、国や地方公共団体において実施される、病害虫の発生状況、気象、農作物の生育状況等の調査です。

4)加振機:人為的に振動を起こさせる装置で、工業製品の耐久試験等に多く用いられます。任意の周波数や波形を発生できます。

5)超磁歪素子(ちょうじわいそし):磁場が加わることで希少金属が大きく伸縮する性質を利用して、振動を発する作用を持つ素子です。

発表論文

上地・高梨(2021)振動によるチャバネアオカメムシ(カメムシ目:カメムシ科)の行動制御と害虫防除への応用.日本応用動物昆虫学会誌、65巻1号掲載(2021.2.25発行)

 

 

お問い合わせ

研究担当者:
農研機構果樹茶業研究部門 生産・流通研究領域 上級研究員 上地 奈美
森林総合研究所 森林昆虫研究領域 主任研究員 高梨 琢磨

広報担当者:
農研機構果樹茶業研究部門 研究推進部研究推進室
Tel:029-838-6451
Fax 029-838-6440
E-mail:kaju-koho@ml.affrc.go.jp

森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
Fax 029-873-0844
E-mail:kouho@ffpri.affrc.go.jp


 

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所属課室:企画部広報普及科

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