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プレスリリース

2022年2月1日

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
国立大学法人 弘前大学

キンカメムシのユニークな求愛ダンスを明らかに
多様な感覚によるコミュニケーションの進化の謎に迫る

ポイント

  • 美しいカメムシの1種が行うユニークな求愛ダンスの詳細を明らかにしました
  • この求愛ダンスは、シグナルの組合せや順序付けによる多様な感覚を利用したコミュニケーションであると考えられます
  • 動物のコミュニケーションで複雑なシグナル利用が進化した要因の解明に寄与できます

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所と国立大学法人弘前大学の研究グループは、亜熱帯林に生息するカメムシの1種ナナホシキンカメムシが行うユニークな求愛ダンスの詳細を明らかにしました。ナナホシキンカメムシの雄と雌は、まるでダンスのような遊戯的でリズミカルな行動パターンを繰り返します。実験室内で詳細な観察を行ったところ、ナナホシキンカメムシは求愛行動のなかで、振動感覚、視覚、化学感覚、触覚といった多様な感覚に作用する4種類以上のシグナルを順序立てて利用している可能性が示されました。これまでこのようなシグナルの組合せや順序付けなどによる情報利用システムは、ヒトを含む哺乳類や鳥類などの脊椎動物を中心に発達した能力と捉えられてきました。しかし、本研究により無脊椎動物である昆虫でも、複数のシグナルの組合せや順序付けによる高度な情報利用を行っている可能性が示されました。今回の成果を踏まえて、様々な動物のコミュニケーションを系統的に調べることにより、このような精巧なコミュニケーションがどのようなプロセスを経て発達してきたのかが明らかになると考えられます。
本研究成果は、2022年1月21日にEcology誌でオンライン公開されました。

背景

精巧な動物のコミュニケーションは、多くの場合、シグナルと呼ばれる信号の組合せや順序付けによって成立します。ヒトの言語の発達は、その最たる例です。例えば、「カメムシが葉上で踊る」という文章は、「カメムシ」「葉上」「踊る」という、3つの単語の組合せで成り立っています。これは、「誰が」「どこで」「何をした」という構文になっており、どの単語がどの場所に置かれるかで、全く異なる意味を持つようになります。また、ひとつひとつの単語は、音節と呼ばれる単位(日本語では母音のみ、もしくは母音と子音から構成される)の組合せよりできています。こうした複雑な情報利用システムを使った音声コミュニケーションは、近年、クジラ類や鳥類などヒト以外の動物でも次々と見つかっており、注目されています。
また、精巧な動物のコミュニケーションの代表例として、鳥類などの求愛行動に見られるマルチモーダル・ディスプレイ(多種感覚ディスプレイ)が挙げられます。これは、色、光、音、匂い、振動など、複数の感覚(視覚、聴覚、嗅覚、振動感覚など)に対して作用する複数のシグナルを利用した複雑なコミュニケーションのことです。使用するシグナルの数が多く多様であればあるほど、その組合せや順序付けのパターンが増えることが予想されるため、マルチモーダル・ディスプレイを行う動物では、高度なシグナル利用システムが進化している可能性があります。

内容

ナナホシキンカメムシCalliphara exellens(カメムシ目:キンカメムシ科)は、体長およそ25~30mmのメタリックグリーンの体色を呈した美麗なカメムシの1種で、この仲間は海外では「宝石カメムシ(jewel bug)」とも呼ばれています(図1)。2014年4月上旬、沖縄県うるま市の浜比嘉島で、クワズイモやオオバギなどにいるナナホシキンカメムシの雄と雌のペアが、特徴的な一連の行動をとることを発見しました。この行動は既往の文献や昆虫研究家の観察により知られており、求愛のためと考えられていましたが、その行動の詳細やどのようなシグナルが使われているのかなど、詳しくは分かっていませんでした。野外より持ち帰ったナナホシキンカメムシのペアを、室内で鉢植えにしたクワズイモの葉の上に乗せ観察した結果、観察した18組のペア全てが野外と同様の行動をとりました。うち13組のペアはこの行動の後に交尾に至ったことから、一連の行動はナナホシキンカメムシの求愛行動であることが確認されました。

図1.体長およそ25~30mmメタリックグリーンの体色を呈したカメムシの1種
図1. ナナホシキンカメムシのペア。

交尾に成功したペアでは、次に示すような共通した一連の行動を示しました(図2)。最初の「デュエット」の段階では、雄が腹部を振動させながら、雌の周囲を歩き回りました。この段階では、雌は時折雄の方を向いて腹部を振動させ、交互に振動を交わす様子が見られました。これに続く「コンタクト」の段階では、雌がストロー状の口を伸ばし、雄の背面に接触しました。その後、雄と雌は互いに触角で触れ合いました。「デュエット」及び「コンタクト」の段階までの一連の流れは平均4回繰り返されました。そして、「交尾準備」の段階では、雄が雌に近づきながら前脚と中脚で葉を激しく叩く様子がみられ、雌が腹部の先端を上げると交尾へと至りました。交尾までに要した総時間は、雄と雌が対面してから平均16分でした。
レーザドップラ振動計*1用いて測定したところ、ナナホシキンカメムシの雄と雌は、この求愛行動のなかで、それぞれ特徴的な振動を発生させていることが確認されました(図2)。また、雄が雌の周囲を軽快なステップを踏みながら動き回ることや、雄自身の背中や触角を雌に接触させることから、視覚、化学感覚、触覚による複数のシグナルを使ってコミュニケーションをしていると考えられます。カメムシの仲間は振動コミュニケーションに特化したグループであり、求愛行動でも振動という単一のシグナルを使うことは既に知られていました。しかし、ここまで複雑なマルチモーダル・ディスプレイは昆虫ではほとんど前例がなく、大変珍しい事例と言えます。

図2.雄と雌のペアが特徴的な一連の行動を示した図
図2. ナナホシキンカメムシの一連の求愛行動。まるでダンスを踊っているかのように、多様な行動パターンを順番に行う。

今後の展開

複数のシグナルを利用してマルチモーダル・ディスプレイを行うナナホシキンカメムシは、高度なシグナル利用システムを発達させている可能性があります。例えば、「デュエット」の段階にみられた、雌の周囲を動き回りながら腹部を振動させる行動では、視覚を通じて伝達するシグナルと振動感覚を通じて伝達するシグナルを併用していると考えられ、これらをどのように提示するかで雌へのメッセージが変わる可能性があります。今後の研究では、ナナホシキンカメムシのシグナルがどのようなルールで組み立てられ、組合せや順番が変わることで各シグナルの意味が変わるのか、明らかにしていきたいと考えています。
これまで、動物の複雑なシグナル利用システムについては、ヒトや鳥類などの脊椎動物を中心に研究が進められてきました。しかし、ナナホシキンカメムシを対象とすることで、無脊椎動物においてこうしたシステムがどのように発達してきたのかを明らかにすることができます。さらに、様々な動物のコミュニケーションを系統的に調べることにより、このような精巧なコミュニケーションがどのようなプロセスを経て発達してきたのか、その進化の謎の解明にも寄与できると期待されます。

論文

タイトル:Elaborate mating dances: multimodal courtship displays in jewel bugs

著者:Mukai Hiromi, Takanashi Takuma, Yamawo Akira

掲載誌:Ecology、2022年1月21日 オンライン公開(https://doi.org/10.1002/ecy.3632)

研究費:文部科学省科学研究費補助金「特別研究員奨励費14J30005」、「若手研究(B)15K18618」

用語解説

*1 レーザドップラ振動計
対象物にレーザ光を照射することで、非接触で対象物の振動をドップラ効果により測定する機械。本研究では、ナナホシキンカメムシが乗る植物の葉にレーザ光を照射して、雄や雌が発する微弱な振動を測定した。(元に戻る

 

 

お問い合わせ

研究担当者:
森林総合研究所 森林昆虫研究領域昆虫生態研究室 主任研究員 向井裕美
弘前大学農学生命科学部 森林生態学研究室 准教授 山尾僚

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.affrc.go.jp

弘前大学農学生命科学部 総務グループ
Tel: 0172-36-2111(内線2749)
E-mail: jm2749@hirosaki-u.ac.jp

 


 

 

 

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所属課室:企画部広報普及科

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