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プレスリリース

2022年11月8日

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所

マダニリスクが高い森林の特徴が明らかに
—シカの密度と植生が鍵となる—

ポイント

  • マダニの数は、シカが多い地域の森林ほど多いこと、特に下層植生が繁茂している林縁などの場所で多いことが明らかになりました。
  • シカは森林地帯全体でマダニを増やす要因となっており、その中でも湿度が保たれた植生が繁茂している林縁などは、マダニが宿主を待ち伏せるのに適していると考えられます。
  • この結果は、マダニによるリスクを避け、安全に野外活動を行うための重要な知見です。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は、複数の森林において、人獣共通感染症を媒介する様々な種類のマダニと宿主となる野生動物の生息状況を調査し、シカが多い地域でマダニが多く、その中でも局所的に下層植生が繁茂している場所で特に多いことを明らかにしました。
近年、ヒトやペットがマダニの媒介する人獣共通感染症に感染する事例が多数報告され、野外活動を行う方から当研究所への相談も増えています。野外でマダニが多い条件を明らかにすることで、マダニのリスクを避け、野外でより安全に活動することができると期待されます。本研究では森林地帯に調査地を設定し、春から秋にかけて林道、林縁、林内でマダニの生息状況を毎月調査するとともに、マダニの宿主動物を自動撮影カメラで調査しました。その結果、シカの密度が高い地域ほどマダニが多いことが明らかになりました。また同一の調査地内では、下層植生が最も繁茂する林縁でマダニの密度も高いことがわかりました。
ただし本研究の結果は、シカを減らせばマダニも減ることを必ずしも意味しません。一度マダニが増えてしまうと、シカを減らしても別の動物を宿主とする可能性があるからです。したがって、マダニに刺咬されるリスクの低減には、シカを中心としてマダニの宿主として重要な野生動物の密度管理が重要です。また、シカが多い地域の森林で、とくに下層植生が繁茂している林縁に踏み入る場合には、服装をしっかり確認し、忌避剤を正しく使用するなどによって念入りにマダニ対策を講じる必要があります。本研究の結果により、仕事やレクリエーションで森林に立ち入る方々がさまざまな条件の場所で安心して活動ができることを願っています。
本研究成果は、2022年9月25日に、国際学術誌「Journal of Medical Entomology」に掲載されました。

背景

近年、様々な新興感染症がヒト社会に深刻な影響を与えており、その75%は、ヒトと動物の両方が感染する人獣共通感染症であるといわれています。マダニ類はヒトを含む脊椎動物から吸血する1~数ミリ程度の大きさの寄生虫ですが、吸血中にSFTS(重症熱性血小板減少症候群)のような人獣共通感染症の病原体を動物からヒトに伝搬することがあります。日本にはチマダニ属やマダニ属、キララマダニ属、カクマダニ属など、5属45種以上の多様なマダニ類(以下、マダニ)が生息し、そのうち多くのマダニ種が病原体をもっていると考えられています。
マダニに刺されるのを避けるためには、肌を露出しない、マダニに有効な忌避剤を使用する、といった対策があります。これに加えて、マダニが多い場所の特徴を知ることができれば、その場所を避けたり、立ち入る際には特に注意を払ったり、また効率的な防除管理を検討することも可能になります。
マダニを増加させる要因の一つが、宿主動物の種類や数です。マダニは、幼虫、若虫、成虫の3つの発達段階があり、各段階で1回ずつ、満腹になるまで宿主に食いついて吸血します。ヒトを刺すマダニの主な宿主は哺乳類であることから、野生の哺乳類が多ければ、人獣共通感染症を媒介するマダニも増える可能性があります。しかしこれまでの国内研究では、マダニとどの哺乳類の個体数の関係が強いのか、定量的に明らかにされていませんでした。
もう一つマダニの数に関係すると考えられる要因が、局所的な微環境です。マダニは乾燥に弱いため、野外においては樹木の有無や下層植生の繁茂状態によって、生息数が局所的に異なる可能性が考えられます。森林には、人が主に歩く林道、森林と林道の境界部で植生の繁茂する林縁、主に林業従事者が立ち入る林内など、さまざまな場所があります。これらの場所ではマダニの生息に影響する微環境が異なると考えられますが、マダニの数との関係はこれまで日本の森林では明らかにされておらず、海外でもマダニがほぼ1種という単純な状況下での研究事例しかありません。

内容

本研究では、複数の森林において、マダニを旗ずり法(布を引きずって付着したマダニを採集する方法)で採集しました(写真)。この調査は、林内、林道の中央、林縁のそれぞれで、2018年の4月から11月まで毎月行いました。さらに同じ調査地で、自動撮影カメラによる野生動物の出没状況を調査しました。
⾃動撮影カメラにはさまざまな野生動物が撮影されましたが、採集されたマダニの数と最も関係していたのがニホンジカ(以下、シカ)の撮影枚数でした。また同じ調査地内では、下層植生が最も繁茂している林縁で、マダニが最も多いという結果となりました(図)。これらの結果から、シカが多い地域ほどマダニが多いこと、同⼀の地域でも、特に下層植生が繁茂している林縁にマダニが多いことが明らかになりました。

マダニの写真
写真 旗ずり法で採集された布の上のマダニ。写真は体長約1cm のマダニ属およびチマダニ属の成虫

シカの撮影頻度と採集されたキチマダニ成虫の数を示したグラフ
図 シカの撮影頻度および微環境(林道の中央、林縁、林内)と採集されたマダニ数の関係。ここでは採集されたマダニ類の中でSFTSウイルスを保有していることが知られているキチマダニの例を示す。

今後の展開

林業やレクリエーションなどで森林を利用する方にとって、マダニに刺されるのは避けたいことでしょう。本研究によって、シカが多い地域ほどマダニが多く、その中でも植生が繁茂している林縁でマダニに出くわす可能性が高いことが明らかになりました。そうした場所に立ち入る際には、肌を露出しない服装や忌避剤などにより念入りにマダニ対策を講じることが重要です。また、人が頻繁に立ち入る場所に狙いを絞った下層植生の除去も有効だと考えられます。これらの対策は、マダニ媒介感染症の発生が報告されている地域では特に重要性が高いと考えられます。
ただし、本研究の結果は、シカを減らせばマダニも減ることを必ずしも意味しません。一度マダニが増えてしまうと、シカを減らしても別の動物を宿主として利用する可能性があるからです。したがって、今後のマダニ対策としては、シカを含む野生動物の個体数の管理が重要です。
近年、新興感染症を含む健康について、ヒト―動物―生態系に包括的に取り組むワンヘルスというアプローチが世界的に注目されています。しかし新興感染症の病原体が、野生動物、ヒトそして環境の関係の中でどのように伝播されているのかについては未だ不明な点が多く、対策のために必要な情報が不足しています。本研究はワンヘルスに基づく人獣共通感染症の対策において、マダニ、野生動物そして環境の関係性を明らかにしてヒトへのリスクを示す具体的な成果に向けた一歩となりました。

論文

論文名:Importance of host abundance and microhabitat in tick abundance(マダニの個体数における宿主の個体数と微環境の重要性)

著者名:Hayato Iijima, Yuya Watari, Takuya Furukawa, Kimiko Okabe

掲載誌:Journal of Medical Entomology、2022年9月25日オンライン公開

DOI:https://doi.org/10.1093/jme/tjac140

研究費:文部科学省科学研究費補助金(17H00807、20H0065)、(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費(JPMEERF20204006)、総合地球環境学研究所FSプロジェクト(No. 14200158)

 

お問い合わせ

研究担当者:
森林総合研究所 野生動物研究領域 鳥獣生態研究室 主任研究員 飯島勇人

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.affrc.go.jp

 

 

 

 

 

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