研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2023年 > 熱帯林~亜寒帯林の樹木の葉量と幹の太さの量的バランス式 ~気候変動の影響予測モデルに必要な森林の葉量データを簡便に得る手段として期待~
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2023年7月12日
京都府立大学
森林総合研究所
ポイント
(1)自然界の樹木は、個体の葉量(ようりょう)と樹冠基部の幹の断面積との間に比例関係を保つように成長する性質があり(図1)、両者の関係式は樹形の「パイプモデル」*2のアロメトリー式として広く知られていました。このアロメトリー式をいったん作っておけば、樹木の樹冠基部の幹の太さの測定値から樹木の葉量を推定できます。樹木の葉量は光合成によるCO2吸収量を推定するうえで不可欠の情報であるため、葉量の推定は地球環境の将来予測という応用的側面からも非常に重要です。しかし測定の困難さからパイプモデルのアロメトリーは樹木の葉量の推定手段としてはこれまでほとんど利用されてきませんでした。また、異なる樹種間でパイプモデルのアロメトリーがどの程度異なるのかもわかっていませんでした。
(2)京都府立大学、国立研究開発法人 森林研究・整備機構らの研究グループは、赤道直下の熱帯多雨林からシベリアの亜寒帯針葉樹林までの様々な森林の159樹種962本の測定データを集め、これらの樹種を4つの植物機能タイプ(常緑広葉樹、落葉広葉樹、常緑針葉樹、落葉針葉樹)に分けた解析を行いました。同研究グループはまた、樹冠基部の幹の太さを簡便に推定する方法を先行研究で開発していました(図2左)。本研究ではその方法によって作成した式を「擬似パイプモデル*3」のアロメトリー式と称し、パイプモデルのアロメトリー式と同等の精度で葉量推定ができるかどうかを確かめることにしました。
(3)擬似パイプモデルで使用する樹冠基部の幹断面積の推定値は、熱帯~亜寒帯にわたる植生の違いや植物機能タイプに関係なく、実測値とほぼ1対1の関係がありました(図2右)。これにより、熱帯から亜寒帯までの様々な樹種において、擬似パイプモデルのアロメトリー式がパイプモデルのアロメトリー式の代替法として妥当であることが確認されました。この結果はまた、生育地や種類の異なる様々な樹木が、樹高に対する樹冠の長さの比と幹の2か所の幹断面積の比とがほぼ一致する樹形(図2左)をもつことを示しています。
(4)個体の葉重の推定に関しては、4つの機能タイプごとにパイプモデルアロメトリーが定まることがわかりました。これにもとづき、擬似パイプモデルを用いて樹冠基部の幹断面積推定値から葉重を計算する場合も、4つの機能タイプ別に異なる式を得ました(図3)。落葉樹よりも常緑樹のほうが、また、広葉樹よりも針葉樹のほうが、同じ幹の太さに対して葉重がより大きいことも明らかとなりました。植物の機能タイプの違いを考えればこれらの式の分離は妥当なものと考えられます。
(5)ところが個体の葉面積推定においては、葉重の場合とは異なる驚くべき結果が得られました。熱帯林から亜寒帯林までの構成樹種は生育下の気候に応じて異なる植物機能タイプに属しているにもかかわらず、パイプモデルのアロメトリーも擬似パイプモデルのアロメトリーもそれぞれ、植物機能タイプに無関係に統計的に1つのアロメトリー式にまとめられることが明らかとなりました(図4)。
(6)幹の断面は光合成に必要な水の通り道となりますが、幹の断面全体が水を通しているわけではないことも、4つの植物機能タイプの間で水の通道器官の構造や透水能力が大きく異なることも古くからよく知られています。したがって4つの植物機能タイプに別々のアロメトリーが決まった葉重の結果には納得できますが、葉面積と幹断面積との間に樹種タイプを超えた1つの関係式が成立したことは不思議と言わざるを得ません。パイプモデルが成り立つように樹木が成長していく生物学的しくみを今後学際的に探求していく必要があります。
(7)本研究の成果は、熱帯から亜寒帯までの様々な森林の樹木の葉面積が一つの式で推定できることを示唆しており、森林の葉面積やCO2吸収に関する知見を組み込んだ気候変動の影響予測モデルの精度向上等へ広く応用されることが期待されます。
*1)アロメトリー、アロメトリー式
アロメトリーは日本語で相対成長関係と訳されています。個体内のある部分のサイズや重量xと他の部分のサイズや重量yとの関係を異なる複数の個体の間で調べると、しばしば y=a xb の式(アロメトリー式)が成立します(a,bは定数)。本論文では、xが幹の断面積, yが葉量に対応しています。(元に戻る)
*2)樹形のパイプモデル
樹形のパイプモデル(Shinozaki et al. 1964a, b)とは、樹木の形が満たすであろうと考えられる概念的なデザインを次のように説明したものです。 (1)樹木が光合成をするためには、単位量の葉(下図の濃い〇)の各々が、一定の太さの水の通り道となるパイプ(下図の実線)を持っているはず、(2)下側の幹内部には、樹木の成長過程で落ちてしまった枝葉(下図の点線)用の使われなくなったパイプが残されているが、生きた枝のすぐ下(下図の矢印)のパイプの断面積の総和は樹木の葉の総量に比例するだろう、といった内容です。実際の樹木は必ずしもこのような構造となっておらず、一本一本のパイプが存在するわけでもありません。しかし、光合成をする樹木が必要とするであろう樹形の基本構造をうまく説明しています。(元に戻る)
Shinozaki, K., Yoda, K., Hozumi, K. & Kira, T. A quantitative analysis of plant form–the pipe model theory I. Basic analysis. Japanese Journal of Ecology 14, 97–105 (1964a).
Shinozaki, K., Yoda, K., Hozumi, K. & Kira, T. A quantitative analysis of plant form–the pipe model theory II. Further evidence of the theory and its application in forest ecology. Japanese Journal of Ecology 14, 133–139 (1964b).
*3)「擬似パイプモデル」の名称
本論文では、樹冠基部の幹断面積の実測値が得られないためにパイプモデルのアロメトリーで葉量を推定することができない森林での葉量推定を目的としています。樹木の樹冠基部の幹断面積の代替値は、樹高、樹冠基部の地上高、および地上1.3mの高さの幹の太さの測定値から計算します。この代替値と葉量との間のアロメトリー式は、パイプモデルのアロメトリーとは計算方法が異なっています。したがって、通常のパイプモデルのアロメトリー式と明確に区別するために、擬似パイプモデルquasi-Pipe model(略してqPipe model)のアロメトリーと呼んでいます。(元に戻る)
論文名:Allometry of the quasi‑pipe (qPipe) model for estimating tree leaf area and tree leaf mass applied to plant functional types(植物機能タイプに適用した葉面積と葉重を推定する擬似パイプ (qPipe)モデルのアロメトリー)
研究者:隅田明洋1、稲垣善之2、梶本卓也3、勝野-宮浦眞澄4、小見山章5、倉地奈保子4、宮浦富保6、長谷川成明7、原登志彦8、小野清美8、山田雅仁8(1京都府立大学生命環境科学研究科、2森林総合研究所四国支所、3新潟大学佐渡共生自然センター、4平岡森林研究所、5岐阜大学応用生物科学部、6龍谷大学先端理工学部、7山梨和英大学人間文化学部、8北海道大学低温科学研究所)
雑誌名:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-023-37112-1
公表日:英国時間2023年6月19日
本研究の一部は、日本学術振興会の科学研究費補助金(24580209)の補助を受けました。
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