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更新日:2012年8月24日

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森林土壌の発達に伴って炭素貯留機能はどう変わるか?

研究問題名: I.森林生態系における立地環境及び植物群落の特性と機能の解明

森林環境部 立地評価研究室 森貞 和仁・今矢 明宏(現: 九州支所)
小野 賢二,・藤本 潔(現: 南山大総合政策学部)

背景と目的

森林土壌には地上部バイオマス炭素量の数倍に及ぶ炭素が貯留されており,森林伐採などの撹乱や森林の再生に伴う土壌炭素の放出や吸収・貯留は地球環境に大きく影響する可能性がある。森林土壌の炭素貯留機能を最大限に発揮させるための管理手法を開発するには,森林の撹乱・再生に伴う土壌炭素の変動過程を明らかにする必要がある。そのため,ここでは火砕流や泥流により出現した裸地状態から,植生が回復し森林が再生するに伴って,土壌中にどのような性質の有機物がどのくらいの速さで蓄積されるか検討した。

成果

わが国の代表的土壌,褐色森林土の分布域である本州山地帯に位置する八ヶ岳大月川岩屑流(888年発生),浅間追分火砕流(1108年),浅間鎌原火砕流(1783年),磐梯泥流(1888年)跡地の安山岩質堆積物上に発達した土壌中の炭素貯留量と土壌有機物の質を比較検討した。

表層から深さ30cmの土壌に蓄積されている炭素量(図1)は,約90年経過した磐梯で39t/ha,約200年経過した浅間鎌原で40t/ha,約850年経過した浅間追分で83t/ha,1100年経過した大月川で95t/haであった。炭素蓄積は,表層部に限れば1000年弱まで増加を続け,その後蓄積速度の増加は頭打ちになるものと考えられた。しかし,深さlmまでの炭素貯留量は,最も古い大月川土壌でも126t/ha前後と周辺土壌(258t/ha)の半分以下であり,1000年を経ても下層への炭素蓄積は十分には進んでいないことが明らかになった。

一方,土壌有機物の中核をなす腐植酸の形態についてみると,最も古い大月川土壌においても表層から下層に至るまで堆積有機物にみるような未熟なタイプがみとめられ,下層では周辺土壌に含まれる腐植化の進んだタイプとは明らかに性質が異なっていた(図2)。

堆積後1000年以上経過し森林の再生に伴って土壌表層への有機物蓄積は進んでも,下層への有機物蓄積は進んでおらず,しかも蓄積された有機物が未熟で容易に分解されて二酸化炭素として放出されやすいものであったことは,炭素貯蔵庫として森林土壌が機能するには長大な時間を要することを示すものである。また,森林土壌の保全が地球温暖化防止の観点から二酸化炭素封じ込めのためにいかに重要であるかを示している。

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写真1 八ヶ岳大月川岩屑流土壌の断面
(注:断面形態は岩屑流周辺土壌と変わらない)

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図1 深さ30cmまでの炭素貯留量(tC/ha)の比較

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図2 大月州土壌の腐植酸区分
(注: 一般に腐植化が進むにつれてRp型からB型を経てA型,またはRp型からP型に変わる)

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