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更新日:2012年7月18日

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超臨界二酸化炭素処理による木材の浸透性改善

木材改質研究領域 機能化研究室 松永 正弘
  表面加工チーム長 松井 宏昭

背景と目的

木材は、その温かな肌触りや美しい木目で人に安らぎを与える、自然の中で育まれた天然材料である。しかし天然材料であるが故に、腐る、シロアリに食べられる、水や湿気によって狂ったり割れたりするなどの欠点もある。そこで、湿気の多いところや屋外で使用する場合には、木材を長持ちさせるために、薬剤を使用した防腐・防蟻処理や化学加工処理が施される。これらの処理では、薬剤が木材内部まで十分に拡散浸透することが重要であるが、難浸透性の木材では内部まで均一に処理することは容易ではなく、目的の効果が十分に発揮されないケースも多い。そこで本研究では、超臨界二酸化炭素(*)処理で木材への薬剤浸透を阻害する抽出成分などを除去し、木材の薬剤浸透性を向上させ、環境負荷の小さい薬剤注入技術を開発することを目的とした。

(*)超臨界二酸化炭素とは、温度が31℃以上、圧力が73気圧以上の二酸化炭素のことで(図1)、気体並の高い流動性・浸透性と液体並の強い溶解力を合わせ持っている。従って、木材のような材料に対して、気体のように速やかに内部まで浸透し、液体に近い溶解力で成分を抽出することができる。また、二酸化炭素は無毒・不燃性・不活性・安価であり、使用後も回収して再利用できることから、環境や人体に有害な有機溶媒に代わる環境低負荷型反応溶媒として注目されており、食品や香料などの分野では超臨界二酸化炭素を利用した商用プラントがすでに稼働している。

成果

図2に示した実験装置を用いて超臨界二酸化炭素処理を行った。あらかじめ全乾質量を測定しておいたスギの心材試片(繊維方向100mm、半径方向25mm、接線方向5mm)を抽出容器に入れ、真空ポンプで容器内を真空にした後に二酸化炭素を入れて密封し、超臨界状態(40℃、120気圧)で30分もしくは7時間抽出処理した。なお、抽出効果を高めるために、二酸化炭素だけでなく少量のアルコールを加えることが一般によく行われており、本研究でもエタノールを二酸化炭素の重量に対して約5%注入して抽出処理をした。処理後、各試片の全乾質量を再び測定し、抽出率を算出してから浸透性評価を行った。評価試験では、試片を繊維方向に垂直に立てて固定し、下部約5mmが常に水に浸かるようにして、1、3、6、24時間後の重量増加率を測定した。浸透性が向上していれば、毛細管現象による水の吸い上げ速度が速くなるので、重量増加率も大きくなる。評価試験の結果、超臨界二酸化炭素処理したスギ心材試片は、未処理試片と比較すると、7時間処理した試片(平均抽出率:0.8%)で約6倍、30分の短時間処理試片(平均抽出率:0.2%)でも約4倍の重量増加率を示し(図3)、大幅に浸透性が改善されることが明らかになった。わずかな抽出率で水の浸透性が著しく改善されたことから、抽出処理の初期段階でスギの水浸透性を阻害していた成分の大半が除去されているものと思われる。写真1は、水の代わりに0.1%濃度の染料水溶液(酸性染料:Solar Orange)を使い、同様の浸透性評価試験を24時間行ったときの試片であるが、超臨界二酸化炭素処理した試片ではほぼ試片全体に染料水溶液が染み渡っており、未処理試片と比べると浸透性が大きく向上していることがよくわかる。

本研究より、超臨界二酸化炭素処理はスギの水浸透性を改善し、薬剤注入をより効果的に行えることが明らかとなった。今後、大きいサイズの試片やスギ以外の樹種の試片でも実験を行い、超臨界二酸化炭素処理法の有効性をさらに検討していく予定である。

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図1 二酸化炭素の温度–圧力線図

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図2 超臨界二酸化炭素処理装置の写真(上)と装置概略図(下)

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図3 浸透性評価試験の結果

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写真1 染料の浸透性の比較(スギ心材)

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