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更新日:2012年7月18日

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環境修復の実用化に向けて担子菌をダイオキシン類の分解に使う

きのこ・微生物研究領域 微生物工学研究室 山口 宗義、関谷 敦

背景と目的

近年、有害物質(例えばダイオキシン類)に汚染された土壌が問題となっている。汚染が低濃度で広く拡散した土壌の浄化には、微生物を用いて有害物質を分解する環境修復技術(バイオレメディエーション)が低コストであり最適と考えられている。ダイオキシン類は化学構造的に多種類存在するが、より複雑な構造のダイオキシンは細菌では分解できず、木材腐朽担子菌のみが分解可能であるといわれている。これまで、研究が行われてきた担子菌は、Phanerochaete chrysosporiumなどであるが、この担子菌は日本国内では発見されておらず、野外での実用化に適していない。そこで本研究では、(1)国内に生存する担子菌の選抜、(2)選抜した菌によるダイオキシン類の分解能の解析、(3)同菌の土壌中での生育、菌の同定・定量技術の開発を行った。

成果

1. ダイオキシン分解菌の選抜

ダイオキシン分解菌の選抜方法として、難分解性色素を脱色する能力(脱色するとオレンジ色、図1写真)を指標にした。当研究所所蔵の担子菌20種174菌株について選抜を行ったところ、ウスヒラタケ菌は脱色能が高く、種内のばらつきが小さかった(図1)ことから、ウスヒラタケ菌を以後の試験に使用することとした。

2. ダイオキシン類の分解能の解析

選抜したウスヒラタケ菌を、ダイオキシン類を添加した滅菌液体培地(貧栄養から富栄養まで3種類の培地)で1ヶ月間培養後、残存するダイオキシン類の量を分析した。その結果、富栄養(米ぬか)培地<中程度栄養(Kirk-LN)培地<貧栄養(CMC(カルボキシメチルセルロース))培地の順でダイオキシン類の減少が大きく(図2)、栄養が少ない培地の方がダイオキシン類の分解が高いことが示唆された。ダイオキシン類に汚染された土壌を滅菌液体培地に混合した後、ウスヒラタケを添加、培養し、1ヶ月後のダイオキシン類の残量を測定した。その結果、栄養が多い(米ぬか)培地より中程度栄養(Kirk-LN)培地の方が、減少した(図3)。

3. 土壌中での担子菌の生育、菌の同定・定量技術の開発

実際の汚染土壌は、様々な微生物が生育している。目的の菌を外部から投入して、環境修復を進めるには、目的菌が土壌中で生育することが肝要となる。そこで、滅菌おがこ・米ぬか培地にウスヒラタケを培養した菌床を無滅菌土壌に混合(菌床:土壌=1:3)し、ウスヒラタケ菌の生育能を調査した。約2週間で、土壌全体にウスヒラタケ菌が蔓延し、1ヶ月後きのこ(子実体)が発生した(図4)。

通常、きのこの種の同定は子実体により行うが、時間がかかるため、菌糸体による同定及び菌糸体を定量する技術を開発しておく必要がある。ウスヒラタケ菌のDNAを特異的に増幅するプライマーを開発し、土壌から抽出したウスヒラタケ菌のDNAを定量できる技術を開発した。土壌中の菌糸体重量とDNA量との間に高い相関が得られ、10μg菌糸体/g土壌まで、定量可能であることが明らかになった(図5)。

以上、ウスヒラタケは貧栄養液体培地中でダイオキシン類を分解でき、土壌中のダイオキシン類を分解する菌として有望であることが明らかになった。無滅菌のダイオキシン類汚染土壌での分解は、まずウスヒラタケを土壌中に蔓延させ、その後分解を行うという作業工程が必要である。今後は蔓延から分解というスイッチング技術を開発するとともに、分解を継続的に行うため、連続的に菌糸体を投与する技術を開発することが課題となる。

本研究は、農林水産技術会議プロジェクト「農林水産業における内分泌かく乱物質の動態解明と作用機構に関する総合研究」で行った。

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図1 担子菌における脱色試験

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図2 各種培地での液体培養におけるダイオキシンの減少
(コントロールは滅菌済みの菌を投入したものを分析)

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図3 液体培養条件下、汚染土壌を供したダイオキシンの減少
(コントロールは滅菌済みの菌を投入したものを分析)

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図4 菌床と無滅菌土壌混和、1ヶ月後の菌糸体生育状況
(矢印は子実体発生)

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図5 ウスヒラタケ菌糸体重量と定量DNA量の相関

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