1. 熱帯林保全をめぐる現状
熱帯林の保全は喫緊の課題です。
森林は、有史以来私たちの生活を育んできました。しかし、20世紀以降、人類の経済活動により森林は急速に減少しつつあり、過去およそ半世紀にわたり、各国政府や国際機関の取り組みのみならず、市民や民間企業など様々な主体を巻き込んで、森林保全のための努力が行われてきました。
こうした努力にも関わらず、過去20年間、特に途上国の熱帯林地域においては、森林はなお減少を続け、いまや危機的ともいえる状況になっています。熱帯林の減少・劣化は、生物多様性や水資源など豊かな生態系サービスの低下をもたらしているだけではなく、樹木や土壌に蓄積された炭素が二酸化炭素として大気中に放出されることにより、地球温暖化を加速させる大きな要因の1つとなっています。
気候変動対策として、熱帯林保全は大きなポテンシャルを持っています。その保全に向けた、国際的な枠組みが動き出しつつあります。
2007年に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第四次評価報告書は、森林減少・劣化による二酸化炭素の排出量が世界の排出量の約2割を占めることを示し、その排出抑制が人類の喫緊の課題であると同時に、そこには大きな排出削減ポテンシャルがあることを国際社会に問いかけました。2007年末にインドネシアで開催された気候変動枠組条約第13回締約国会合では、将来の国際的な気候変動対策の1つとして森林からの排出削減について検討することが合意されました。その後、2013年に公表されたIPCC第五次評価報告書第一作業部会報告書では、森林減少など土地利用変化による温室効果ガスの排出が1750年から2010年までの累積の約3割を占めていることが示され、さらに2014年の同第三作業部会報告書では、森林減少・劣化からの排出量を削減する活動(REDD+など)は、持続可能な形で実施される場合、費用対効果の高い緩和策であり、生物多様性や水資源の保全、土壌浸食の低減など、経済・社会・その他の環境面や適応に関するコベネフィットをもたらすことが指摘されました。現在、2020年以降の新たな国際枠組みの中に位置づけることを目指して、熱帯林保全を通した二酸化炭素の排出削減策「REDD+」の構築に向けて議論を進めています。
このような国際社会の動きにさきがけ、今、世界では、ボランタリーな炭素クレジット市場を通じた熱帯林保全の取り組みも拡がりつつあります。日本政府も、二国間クレジット制度(JCM)を打ち出し、民間事業者が森林保全活動(REDD+など)を通じて途上国の排出削減活動に取り組む仕組み作りを進めています。
世界の熱帯林を守るためには、民間の力も含めたあらゆる手段、あらゆるプレイヤーの動員が必要です。
一方、民間においては、これまで我が国の多くの企業が、NGOや市民とも連携し、植林事業をはじめとする熱帯林を対象としたCSR(企業の社会的責任)活動に取り組んできました。近年は、環境意識の高い消費者のニーズに応えるとともに、持続的な資源利用など、企業活動そのものの持続性や社会問題への解決を通じた事業価値の創造という観点から熱帯林保全に取り組む企業も増えつつあります。
このように熱帯林保全に関する取組は、国際交渉、我が国の政策、企業活動といった様々なレベルで進められており、その問題意識は根本的には共有されていると言って良いでしょう。しかしながら、一般社会においては熱帯林保全の仕組みであるREDD+や企業の事業活動を通じた取り組みについて認知度は低く、具体的な取り組みを強く推進する状況には至っていないのが現状です。喫緊の課題である熱帯林の減少を食い止めるためには、企業、市民、政府、研究機関等が様々な枠組みや手段を通じて取り組む必要があります。本年9月に開催された国連気候サミットにおいても、日本を含む27か国、34企業等が参加した「森林に関するニューヨーク宣言」にて、世界の天然林の減少を2020年までに半減し、2030年までにゼロにするために、世界中の企業、市民、政府、国際機関等のあらゆるプレイヤーが共に取り組む必要性が指摘されています。
