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熱帯雨林樹木には様々な窒素利用様式がある

2016年5月9日掲載

論文名

Variation in leaf and soil δ15N in diverse tree species in a lowland dipterocarp rainforest, Malaysia (マレーシア熱帯雨林における土壌と多様な樹木の葉の窒素安定同位体比の変異)

著者(所属)

田中(小田) あゆみ(立地環境研究領域)・田中 憲蔵(植物生態研究領域)・井上 裕太(愛媛大)・矢野 翠(東京農工大)・木庭 啓介(東京農工大)・市栄 智明(高知大)

掲載誌

Trees、2015年10月オンライン出版、DOI:10.1007/s00468-015-1298-9(外部サイトへリンク)

内容紹介

熱帯雨林の土壌は貧栄養にも関らず、樹高が50mを超える高木が林立し、非常に多くの樹種が生育しています。植物に必要な栄養素の中でも、窒素は最も不足しやすい養分であるため、その吸収方法や供給源の解明は、熱帯雨林の多様性の理解と森林修復を行う際の重要な知見になります。葉の窒素安定同位体比は、土壌に含まれる硝酸態やアンモニア態など植物が利用している窒素源の種類や、菌根など共生菌の種類によって変化するため、植物の窒素利用様式の解明に役立ちます。

この研究では、熱帯雨林樹木の窒素利用様式を明らかにするため、マレーシア・ボルネオ島に生育する巨大高木や低木など、100種以上の樹木の葉や根の窒素安定同位体比や窒素含有量を調べました。その結果、優占樹種のフタバガキ科樹木の窒素同位体比は他の樹種に比べると高く、これは根に共生する外生菌根菌が窒素の吸収を助けていることに関係しているためと考えられました。また、根粒菌による窒素固定を行うマメ科等の樹種はゼロに近い値を示しました。一方、他の大多数の熱帯雨林の樹木は、最も広汎に見られるアーバスキュラー菌根と共生していますが、その窒素同位体比には非常に大きな種間差が認められました。この種間差は、硝酸態やアンモニア態など、樹種ごとに好んで吸収する窒素タイプが異なることを示唆しています。以上のことから、熱帯雨林では、樹木が様々な窒素源や共生菌を持ち、またそれに応じて多様な窒素の吸収様式を獲得することで、貧栄養な土壌環境で多種の共存が可能になっていることがわかりました。

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