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幼齢人工林で守られる草地性生物 ―小面積でも複数あれば保全機能を発揮―

2016年7月15日掲載

論文名

Estimating species-area relationships by modeling abundance and frequency subject to incomplete sampling(不完全なサンプルから個体数と頻度をモデル化して種数-面積関係を推定する)

著者(所属)

山浦 悠一(森林植生研究領域)、E. F. Connor(サンフランシスコ州立大学)、J. A. Royle(アメリカ地質研究所)、伊東 捷夫(伊東応用植物研究所)、佐藤 清(伊東応用植物研究所)、滝 久 智(森林昆虫研究領域)、三島 啓雄(国立環境研究所)

掲載誌

Ecology and Evolution, Wiley.、DOI: 10.1002/ece3.2244(外部サイトへリンク)

内容紹介

現在草地は全国的に減少し、草地に依存した生物種(遷移初期種)はその数を大きく減らしています。林業活動は森林を伐採して木を植え、植栽した木と競合する雑草木を刈り取ります。この一連の作業は草地環境(幼齢林)を作り出して維持するため、林業による遷移初期種の保全が期待できます。アメリカでは、伐採して間もない幼齢林で遷移初期種を保全するためには、幼齢林を一定面積以上に保つ必要があると指摘されています。

北海道の十勝地方では、カラマツ人工林の伐採と再造林が盛んに行なわれています。私たちは、この地域で面積が1.3~10 haと異なる4~6年生のカラマツ人工林で鳥類と植物の調査を行ないました。その結果、12種の草地性鳥類、114種の草地性植物のいずれも、密度と幼齢林の面積とは関係が認められませんでした。

本研究の結果は、幼齢林が持つ遷移初期種の面積当たりの保全機能は、概ね1ha以上であれば、面積によって変わらないことを示しています。つまり合計の幼齢林面積が等しければ、小面積の複数の幼齢人工林でも、大面積の単一の幼齢人工林でも、遷移初期種の鳥類と植物の保全機能は大きく異ならないことが示されました。小面積を皆伐して循環させる林業でも、遷移初期種の保全に寄与することが期待されます。一方で、伐採面積は他の多面的機能の発揮も考えて決定することが必要です。

 

 

写真:十勝地方の幼齢林に生息する代表的な草地性鳥類、ノビタキ

十勝地方の幼齢林に生息する代表的な草地性鳥類、ノビタキ。オス個体がカラマツ植栽木の梢に留まっています。

*出版社から許可を得て、論文中の図を転載しています(Reprinted from Ecology and Evolution, Yamaura et al. Estimating species-area relationships by modeling abundance and frequency subject to incomplete sampling. With permission from John Wiley and Sons)。

 

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