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2016年7月15日掲載
論文名 |
Microscopic characterization of tension wood cell walls of Japanese beech (Fagus crenata) treated with ionic liquids. (イオン液体処理したブナ引張あて材細胞壁の顕微鏡による観察) |
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著者(所属) |
神林 徹(木材改質研究領域)、宮藤 久士(京都府立大学) |
掲載誌 |
Micron, 88:24-29, September、DOI: 10.1016/j.micron.2016.05.007(外部サイトへリンク) |
内容紹介 |
化石資源の枯渇が懸念される中、木材をイオン液体※で溶かし(液化)、これまで化石資源から製造されていた医薬品やプラスチックなどの原料に変換する技術開発が進められています。しかし、木材は多様な細胞で構成される複雑な構造体であるため、イオン液体による木材の液化を制御するには、イオン液体と細胞壁の詳細な反応メカニズムを明らかにする必要があります。 本研究では、広葉樹において湾曲した樹幹や枝などに形成される引張あて材※※を有効利用する上で、どのようなタイプのイオン液体が液化に効果的であるのか、またそれによってどのように細胞壁が液化していくのかを顕微鏡を用いて観察しました。 広葉樹であるブナの引張あて材には、正常材と異なりゼラチン層(図矢印)と呼ばれるセルロースを多く含む層が形成されます。セルロースを溶かすタイプのイオン液体でブナの引張あて材を処理すると、細胞壁が著しく変形し迅速に液化が進行することが明らかとなりました(図)。この現象は、イオン液体処理の初期段階でゼラチン層が急速に溶け出していることが認められ(図B)、ゼラチン層の溶出が引張あて材の液化を促進させたと考えられます。 以上の結果から、セルロース溶解性を有するイオン液体が引張あて材の液化に有効であり、イオン液体により未利用材を効果的に化学変換できる見通しが得られました。
※イオン液体:常温付近で液体として存在する塩(えん)の総称。様々なタイプがあり、木材ではセルロースやリグニンなど化学構造に応じて木材成分を溶解できるものがある。 ※※引張あて材:傾斜した広葉樹の樹幹や枝に形成される異常組織。細胞壁構造や物理的・化学的性質が正常材と異なるため利用が難しい。
(図 イオン液体処理前後におけるブナ引張あて材の細胞壁の様子(走査型電子顕微鏡写真) A:処理前。B:24時間処理後。C:72時間処理後。矢印、ゼラチン層)
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