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カンボジアの乾燥落葉林では、乾季に入っても光合成や蒸散が活発に行われている

2017年1月27日掲載

論文名

Seasonal and height-related changes in leaf morphological and photosynthetic traits of two dipterocarp species in a dry deciduous forest in Cambodia (カンボジア乾燥落葉林における2種のフタバガキ科樹木の葉の形態と光合成の樹高と季節による変化)

著者(所属)

田中 憲蔵(植物生態研究領域)、飯田 真一・清水 貴範・玉井 幸治(森林防災研究領域)、壁谷 直記・清水 晃(九州支所)、チャン・ソファール(カンボジア野生生物開発研究所)

掲載誌

Plant Ecology and Diversity、スコットランド植物学会、January 2017、DOI:10.1081/17550874.2016.1262472(外部サイトへリンク)

内容紹介

雨季と乾季が明瞭なカンボジアでは、乾季に落葉する乾燥落葉林は国土の約25%を覆い、この地域の森林の炭素や水の循環において重要な役割を担っています。乾燥落葉林の樹木は、雨がほとんど降らない乾季でも数ヶ月は葉をつけています。そのため、この時期においても光合成や蒸散活動に伴う炭素や水の動きは無視できないと考えられていましたが、これまでその実態はよくわかっていませんでした。

そこで、この乾燥落葉林に優占するフタバガキ科2種について、稚樹から成木まで様々な生育段階にある個体を選び、光合成能力や葉の形態や性質などがどう季節変化するのか調べました。その結果、乾季の初め頃は、光合成速度は雨季に比べるとやや低下するものの、葉の気孔開度には変化がなく、蒸散も活発に維持されていました。さらに、乾燥が進むと、土壌水分が大きく低下して落葉しますが、乾季が終わる直前の最も乾燥する頃には、新葉が展開し始めて光合成や蒸散が可能な状態になっていました(写真)。しかし、この頃の新葉は気孔がほぼ閉じた状態にあり、強い乾燥に対しては蒸散を抑制する方法で耐えているのが分かりました。また、調査したフタバガキ科2種ともに、林冠木は林床の稚樹よりも光合成能力が高いことが分かりました。これは、同じ地域に分布する乾燥常緑林で知られていたような、乾燥ストレスを受けやすい林冠木が稚樹に比べて葉の気孔を閉鎖しやすく、それに伴い光合成速度も低下させる傾向とは大きく異なっていました。乾燥落葉林におけるこうした乾季における樹木の特徴は、カンボジアの森林の炭素循環や水収支の実態を解明する上で、重要な情報として活用することができます。

 

写真:カンボジアの乾燥落葉林

写真:カンボジアの乾燥落葉林(左から、雨期、乾季初め、乾季中旬の様子)。

乾季に入り2か月程度が経過(中央写真)しても、樹木の葉はまだ緑色で、活発に光合成や蒸散活動を行っていた。乾季中旬(右写真)になると、ほぼすべての樹木が落葉するが、この写真の中央に見えるフタバガキ科樹木は、すでに展葉が始まっている。これら新葉の気孔はほぼ閉じており、蒸散を抑制することで乾燥に適応している。また、林床には野火が入り草本群落は消滅している。

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