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周辺広葉樹林は人工林内の稚樹の多様性に必要

2017年10月13日掲載

論文名

Thinning affects understorey tree community assembly in monoculture plantations by facilitating stochastic immigration from the landscape (人工林を間伐すると周辺景観からの確率論による移入が促進され、林床稚樹の群集集合が変化する)

著者(所属)

北川 涼(横浜国立大学、元森林総合研究所非常勤特別研究員)、上野 満(山形県森林研究研修センター)、正木 隆(研究企画科)

掲載誌

Journal of Applied Vegetation Science、20(4):673-682、August 2017、DOI:10.1111/avsc.12327(外部サイトへリンク)

内容紹介

原生林の喪失による世界的な生物多様性の低下が進む中、人工林でも多様性を保全することが重要です。そのための手段として間伐が有効と考えられています。一般的に間伐は林床の稚樹の多様性を高めます。それには光など環境の変化から事前に予測しやすい部分と周囲からの種子の飛び込みなど確率論に左右されるために予測しにくい部分の2つの面があります。それぞれの貢献度を明らかにするため、山形県の49箇所のスギ人工林で間伐前、間伐から2年後、間伐から5年後における林床稚樹の種数をはじめとしたいくつかの多様性指標の変化を分析し、その変化に影響を与えた要因を探りました。

その結果、主に次の3つのことがわかりました。まず、(1)間伐前、間伐後ともに、林床稚樹の種数はスギの胸高断面積合計とともに低下していました。このことから、光が少なくて暗い林分ほど多様性が低いことがわかります。一方、(2)間伐の前後を比べると林床稚樹の種数の変化はわずかだったことから、間伐作業にともなって失われた種数と周囲からの飛び込みによって補充された種数は釣り合っていたと言えます。しかし、間伐後の林床稚樹の組成は大きく変化していました。これは、間伐によって生じた「空白地」に新たな樹種が周辺から飛び込んできたことを意味しています。そして、(3)林床稚樹の多様性は周辺の広葉樹林が多いほど高く、とくに間伐から間もない2年後の時点ではその影響を受ける範囲が半径600mまで拡大していました。これは、人工林を間伐すると周辺のより広範囲の広葉樹林が種子の源となって林床稚樹の多様性を高めることを意味しています。

このように人工林の間伐は基本的に林床稚樹の組成を変化させ、将来の樹木種の多様性を増すことも期待できます。しかし、その効果は周辺の広範囲に種子源となる広葉樹林が豊富に分布しているときにこそ発揮されるといえるでしょう。


写真:調査したスギ人工林の1つ

写真:調査したスギ人工林の1つ。間伐から5年経過したところである。周囲に広葉樹林があると、間伐による多様性保全の効果がより発揮される。

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