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動物の多様性調査時に個体の見落としと調査区への移出入を区別して種数や密度を推定する

2017年12月22日掲載

論文名

Community distance sampling models allowing for imperfect detection and temporary emigration

(不完全な発見と一時的な移出を扱う群集距離標本法モデル)

著者(所属) 山浦 悠一(森林植生研究領域)、J. A. Royle(アメリカ地質研究所)
掲載誌

Ecosphere、8(12)、December 2017、 DOI:10.1002/ecs2.2028(外部サイトへリンク)

内容紹介

野外調査では動物を完全に発見することは困難で、多くの場合、見落とし個体が存在します。私たちは近年、野外調査におけるこのような「不完全な発見」を考慮して動物の種数や個体数を推定するモデル(群集モデル)を提案してきました。しかし、動物の行動圏は調査区よりも大きいことが多く、調査時に動物は調査区内に必ずしも存在しません。この場合、調査区では動物を発見することはできません。そして、動物の調査区への移出入を考慮しないこれまでのモデルでは、実際には調査区の外にいる個体を「見落とした」と判断してしまい、動物の密度を過大推定してしまうと指摘されていました。

そこで本研究では、不完全な発見と、この「一時的な移出」を区別して扱う群集モデルを開発しました。具体的には、動物を調査区内で発見した際、調査者から動物までの距離を記録する距離標本法(注)を同一調査区で複数回実施します。これにより、不完全な発見と一時的な移出を別個に考慮しながら各動物種の生息密度、さらには動物群集の種数や密度が推定できるようになりました。

このモデルを鳥類の調査データに適用したところ、個体の移出確率はヒバリで0.14と小さかったものの、オオルリで0.98と種によっては大きく、一時的な移出を考慮しないと、鳥類の密度や種数を過大推定してしまうことが示されました。鳥類などの動物の調査では、種数や密度を推定する際、行動圏が大きな個体や種をどのように扱うかが長年の課題でした。発見率と移出率を区別して扱うことにより、動物の多様性をより正確に扱うことができるようになり、多様性が自然界で担う役割の解明がより進むと期待されます。

(注):距離標本法(distance sampling)は調査者から発見個体までの距離を記録する調査手法です。発見個体と調査者の距離が大きくなると発見率が落ちる過程をモデル化し、見落とし個体の存在を考慮しながら、調査区内の動物の個体数、すなわち密度を推定することができます。一回の調査で発見率と密度の推定を行なえることから、陸上の鳥類や哺乳類だけでなく、海上での哺乳類の調査などにも応用されています。


図1:群集モデル

 

写真:人工林伐採地の切り株で採食するクマゲラ

写真:人工林伐採地の切り株で採食するクマゲラ
クマゲラやアカゲラをはじめとするキツツキの仲間は行動圏が広いことで知られています。発見率と移出率を区別しない従来のモデルでは、こうした種の密度を過大推定し、結果として鳥類の種数や密度を過大推定してしまいます。同一調査区で距離標本法を繰り返し行ない発見率と移出率を区別することで、種数や密度が適切に推定できると期待されます。

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