研究紹介 > 研究成果 > 研究成果 2018年紹介分 > スギ花粉飛散防止剤となるシドウィア菌の潜在的な自然分布を予測
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2018年12月3日掲載
論文名 |
Predicted potential distribution of Sydowia japonica in Japan (シドウィア菌の日本における潜在分布予測) |
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著者(所属) |
升屋 勇人(きのこ・森林微生物研究領域)、市原 優(関西支所)、相川 拓也(東北支所)、高橋 由紀子・窪野 高徳(きのこ・森林微生物研究領域) |
掲載誌 |
Mycoscience 59(5): 392-396、日本菌学会、September 2018、DOI:10.1016/j.myc.2018.02.009(外部サイトへリンク) |
内容紹介 |
シドウィア・ジャポニカ(Sydowia japonica)は菌類の1種で、スギの雄花に特異的に感染して雄花のみを枯らすという性質があります。これを利用して、スギ花粉の飛散を防止できる可能性があることから、現在、実用化に向けた研究が進められています。この菌を実際にスギ花粉飛散防止剤として利用するにあたり、散布した場所に定着する可能性や、定着しやすさについて評価するため、本菌の生息場所と分布に影響する環境要因について明らかにしておく必要があります。そこで、本研究では、日本国内における本菌の分布を、実際の野外分布調査と、Maxentとよばれる種分布モデルを用いて予測しました。また、モデルに基づき、分布に影響する可能性がある環境因子を抽出しました。 日本全国100カ所以上で野外調査を行い、分離試験やDNA解析で本菌の有無を明らかにしました。本菌の分布が明らかになった87カ所における位置情報と、気温、雨量、日照時間、日射量などの気象データに基づき、本菌の自然分布をMaxent種分布モデルにより予測しました。分布調査の結果から、本菌は北海道から九州まで広く分布し、特に北陸、近畿地方に、より高頻度に分布していることが分かりました。そして、Maxentに基づく分布予測では、本菌の国内での分布予測図が作成されました(図1)。また、分布に最も重要な環境因子は、冬の日射量と夏の降水量であると考えられました。これらの情報を利用して、本菌を用いたスギ花粉飛散防止剤の効率的な散布条件や、有効な散布対象地域を明らかにすることができます。 注)種分布モデル:既知の分布情報と生息地の環境情報との相関に基づく、生物の地理的分布の予測モデル。様々な手法があり、生物地理学や多様性研究で広く用いられている。
図1:実際の分布と気象データに基づき予測したシドウィア菌の潜在分布(青→緑→黄→赤色に変化するに伴って分布確率が高くなる)。 |
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