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大規模データベースを使ってスギとヒノキの様々な生理的能力を明らかにした

2022年1月19日掲載

論文名

Verification of our empirical understanding of the physiology and ecology of two contrasting plantation species using a trait database(生理・生態特性の経験的理解について、対照的な2つの植林樹種の形質をデータベースを用いて検証)

著者(所属)

大曽根 陽子(元立地環境研究領域PD)、橋本 昌司(立地環境研究領域)、田中 憲蔵(国際農林水産業研究センター林業領域)

掲載誌

PLOS ONE、16(1)、e0254599 2021年11月 DOI:10.1371/journal.pone.0254599(外部サイトへリンク)

内容紹介

日本の人工林の大部分を占めるスギとヒノキについて、その生理的な特性を把握することは成長の予測や気候変動の応答を解明する上で、不可欠な情報です。そこで、スギとヒノキの苗木から成木までの生理的能力を網羅的に解明するため、過去70年間に発表された文献から作成した大規模データベース注)を使って関連する様々な生理特性を比較しました。

その結果、スギの早い成長は強光を効率よく受け止める葉の配置や材密度の低さが要因である一方、蒸散能力が高く水を多く消費すること、ヒノキは葉や木部の乾燥耐性が高いことが示されました。これは、スギは湿潤な環境で成長が良く、ヒノキは乾いた環境にも耐えられるというこれまで知られた一般的な知識と一致していました。しかし、両種の乾燥耐性能力はスギ・ヒノキが属する世界のヒノキ科樹種の中では中程度でした。この事は世界で見ると日本の気候は比較的湿潤な環境にあることと関係していると考えられます。今後の気候変動によりこれまで日本では経験がないような強い乾燥が起こると、スギ・ヒノキは成長低下や、さらに枯死する危険性が高いことを意味します。今回得られたスギとヒノキの定量的な生理的能力は、人工林の気候変動影響の精緻な予測や、気候変動に強い森林作りに役立ちます。

注)スギとヒノキに関する文献を1950年代から網羅的に収集し、光合成や材密度、葉の形質など177の特性についてデータベース化したもの。データの収録数はスギが16400点、ヒノキが8300点を超え、樹種あたりの収録数としては、世界の同様のデータベースと比較しても世界最大規模。データベースはEcologial Research Data Paper Archives(https://db.cger.nies.go.jp/JaLTER/ER_DataPapers/archives/2019/ERDP-2019-05(外部サイトへリンク))から公開されている。

(本研究は、2021年11月にPLOS ONEにおいてオンライン公開されました。)

 

図:スギとヒノキの能力の概略図
図:スギとヒノキの能力の概略図。スギとヒノキは同じヒノキ科の針葉樹ですが葉の形が大きく異なり、生態的な特性にも差が見られます。スギの葉は立体的で強い光を効率的に受け止めるのに適していますがヒノキの葉は平面的です。スギとヒノキの光合成能力はほぼ同じですが(A)、スギの方が光獲得効率が高く、材密度も低いため成長が早くなります(B、C)。また蒸散能力や水輸送能力はスギで高く水消費型ですが(D)、ヒノキの方は乾燥した土壌からでも水を吸い上げる能力が高く、葉と木部の乾燥耐性も高いです(E)。

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