研究紹介 > 研究成果 > 研究成果 2022年紹介分 > 時短低コストの無花粉スギ判別技術を開発
ここから本文です。
掲載日:2022年8月29日
無花粉スギの系統かどうか判別する方法として、混合したスギ10本分のサンプルからDNAを抽出し遺伝子を解析する新技術を開発しました(図1)。スギ1本ごとにサンプルからDNAを抽出する方法に比べ、判別までの所要時間は78.3%減、人件費を含めたコストは78.5%減と圧縮でき、無花粉スギの普及加速につながる成果です。10本分まとめて分析できる新技術は既存技術の試行錯誤により可能となりました(図2)。
福島、神奈川、秋田、三重、岩手など12都県から採取した計866本分のサンプルを対象に、この新技術により遺伝子解析を行いました。その結果、DNA抽出から無花粉スギ判別までの人手による所要時間は1本あたり1.8分で、従来の個別分析の8.3分より78.3%削減できました。人件費を含めたコストも1本あたり66円で、従来の方法より78.5%削減できました。
また、サンプル866本のうち、福島の8本、三重の1本の計9本が無花粉系統であることが判明しました。
(本研究は、2022年6月にTree Genetics & Genomesにおいて公開されました。)
図1:スギ10本のサンプルを(A)従来法と(B)開発した方法で分析する模式図
(A)従来法ではスギから新葉を採取しDNA抽出とPCRを個別に行い判定を行います。この作業を10本のスギがあれば10回繰り返しますが、無花粉系統のピークは赤い矢印で示すように明瞭に現れます。ただしその頻度は稀であるため大部分のサンプルに、そのピークは現れません。
(B)開発した方法では10本のスギから採取した新葉をはじめに混ぜてしまいDNA抽出とPCRを行って判定を行います。サンプルを混ぜることで10本分の作業を一度に行うことができます。また無花粉系統のピークは10本を混合したサンプルでも十分に検出できるため見落とすことはありません。無花粉のピークが見つかった場合にだけ従来法を適応し個別に判定を行って、どの個体が無花粉系統であるかを確定させます。今回の研究では866本のスギを判定し無花粉のピークが見つかったのは9本でした。
図2:無花粉スギの原因遺伝子(MS1)について開発した方法で判別する場合の模式図。
模式図では判定する個体のサンプルを粒子で表し、緑の部分が正常なスギ、青(ms1-1)と橙(ms1-2)が無花粉スギ系統を表します。赤い丸で囲った部分でms1-1(A)とms1-2(B)のピークが期待されます。無花粉スギの系統が存在しないときは、上段パネルのようにピークは現れません。一方で、ピークの拡大図が示すように、10個体の中に1個体でも無花粉スギの系統が存在すれば十分にピークを検出することができます(下段パネル)。
お問い合わせ
Copyright © Forest Research and Management Organization. All rights reserved.