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改質リグニンの用途拡大に繋がる簡便な処理法と評価法を開発

掲載日:2023年4月24日

改質リグニン(GL)の用途拡大のため、過酸化水素水を用いた浸漬処理による簡便な酸化GLの調整法を開発すると共に、その評価に赤外分光分析法を用いると簡便かつ正確な分析が可能であることを見出しました(図1)。

改質リグニンは、リグニンの化学構造のばらつきとリグニン由来物の加工性の低さを植物種の絞り込みと、グリコール系の薬液を用いることで解決した日本発の新素材です。リグニン系素材としては世界最高レベルの加工性能を持ち、リグニン系高機能材料産業を創出する世界初の新素材と考えられています。改質リグニンを用いたプラスチック代替に向けた研究開発が進んでいますが、炭素繊維強化材料などの複合材料の樹脂に用いる場合は、改質リグニン自体の物理特性が製品の性能に大きく作用するため、特性のバリエーションの向上が有効と考えられます。

今回の研究では、改質リグニンを室温で過酸化水素水に浸漬するだけの簡便な方法で、「カルボキシ基」含有量を増加できることを見出し、この方法の有効性を科学的に実証しました。評価においては、電位差滴定分析法を利用した化学分析により定量したカルボキシ基含有量と、操作が簡単な赤外分光分析(ATR-FTIR)で測定したカルボニル含有基吸光度の値が極めて高い相関(R2=0.99)を示し、簡便な分光分析のみでカルボキシ基の導入を評価できることを見出しました(図2)。カルボキシ基の増加は複合材料を調製する際の界面での接着性などに大きく影響するので、より高性能な材料開発に繋がる手法としての活用が期待されます。

「カルボキシ基」:お酢の成分である酢酸などにも含まれる酸性を示す化学構造で、化学式ではーC(=O)OHと表記される。

本研究は、Molecules 2023において2023年2月に公表されました。)

図1:改質リグニンの用途拡大のための処理法と評価法
図1:
(a) 赤外分光分析装置(FTIR)
(b)減衰全反射(ATR)アクセサリ
(c) 酸化処理前(左)と酸化処理後(右)のFTIRスペクトル
(d) 改質リグニン(左)と酸化改質リグニン(OGL)(右)

図2:簡便な分光分析のみでカルボキシ基の導入を評価
図2:処理時間による
(a) カルボニル含有基吸光度「赤外分光分析・減衰全反射(FTIR-ATR)法」
(b) カルボキシ基含有量「電位電位差滴定分析法」
(c) カルボニル含有基吸光度とカルボキシ基含有量の相関関係。

  • 論文名
    Hydrogen Peroxide Treatment of Softwood-Derived Poly(Ethylene Glycol)-Modified Glycol Lignin at Room Temperature (針葉樹材由来ポリエチレングリコール改質リグニンの室温下過酸化水素処理)
  • 著者名(所属)
    Thi Thi Nge(ネーティティ・新素材研究拠点)、飛松 祐基(京都大学)、髙橋 史帆(森林資源化学研究領域)、梅澤 俊明(京都大学)、山田 竜彦(新素材研究拠点)
  • 掲載誌
    Molecules、28(4)、1542、2023年2月 DOI:10.3390/molecules28041542(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 大平 辰朗
  • 研究担当者
    新素材研究拠点 ネーティティ

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