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掲載日:2023年5月12日
250年の間、利用された構造部材(古材、アカマツ)と未使用材(新材、アカマツ)のそれぞれに縦引張りおよび縦圧縮荷重を加えたところ、木材を構成する細胞壁の主成分であるセルロースでは、古材で荷重方向への変形の現れ方に遅れが認められました。
古材と新材の力学的性質の違いについては、木材そのものについて検討した研究が多く、木材内部のセルロースにも経年の影響があることを初めて明らかにしました。これは木材の経年変化のメカニズムについて理解を深める発見です。
築250年の浄運寺(長野県須坂市)の庫裏の小屋梁より得た古材と、使用履歴を有さない新材のそれぞれに縦引張りおよび縦圧縮荷重を与えて、シンクロトロン光によるX線回折法*) により、木材内部のセルロースの荷重に対する変形を調べました。
図に示すように、新材では荷重が作用したと同時にセルロースは荷重方向の変形を示したのに対し、古材では最大荷重の1割程度の荷重が作用してはじめて荷重方向の変形を示すことがわかりました。
*) シンクロトロン光によるX線回折法:電子加速蓄積リングと呼ばれる加速器(シンクロトロン)を用いて発生させたシンクロトロン光は電子のエネルギーが高いため、一般に実験に使われるX線と比較した場合10000倍以上の明るさを持ちます。これをX線として用いることで、従来では数時間を要していた測定時間を数分に短縮することができ、荷重に対する木材内部のセルロースの反応をより明確に捉えることが可能です。
(本研究は、Holzforschungにおいて2023年2月にオンライン公表されました。)
図:単軸荷重におけるセルロースのSPL比
Nは試験体数。SPL比は荷重方向の変形を生じた荷重と最大荷重の比率。
古材のSPL比はおよそ0.1で、最大荷重に対して1割程度の荷重が試験片に作用した時にはじめてセルロースは荷重方向の変形を示しており、新材と比較して遅れていることが分かります。
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