研究紹介 > 研究成果 > 研究成果 2023年紹介分 > 地表を歩いて生活する甲虫類の保全には広葉樹林の維持・回復が重要

ここから本文です。

地表を歩いて生活する甲虫類の保全には広葉樹林の維持・回復が重要

掲載日:2023年7月31日

針葉樹人工林が豊富な地域で甲虫類を保全する際、広葉樹が混交した人工林をたくさん作るよりも、広葉樹が主体の天然林を少量でも確保する方が効果的な場合があることが、北海道の国有林での調査で分かりました(写真)。地表を歩いて生活する移動能力の乏しいオサムシ類の多くの種にとっては、針葉樹のない広葉樹天然林が特に生息に適しているものと考えられました。木材生産と甲虫類の保全の両立には、残された広葉樹天然林の維持が重要であり、植栽した針葉樹の成長が悪く既に多くの広葉樹が侵入している人工林を純粋な広葉樹林へ誘導することも有効である可能性があります。

混交した広葉樹の量が異なるトドマツ人工林とアカエゾマツ人工林、そして広葉樹天然林において、6月から9月にかけて環境変化に鋭敏に応答する甲虫類であるオサムシ類とカミキリムシ類を設置型トラップで捕獲しました。オサムシ類では森林を好む種を、カミキリムシ類では幼虫が広葉樹を食べる種と広葉樹と針葉樹の両方を食べる種を解析対象のグループとしました。そして、針葉樹の量1) に応じた捕獲数の違いから、各グループの生息地としての森林の質を評価しました。

その結果、森林を好むオサムシ類の総個体数は針葉樹の量が多くなるほど少なくなり、多くの種では針葉樹の量が少し高まるだけで広葉樹林より大幅に個体数が少なくなることが分かりました(図)。一方、カミキリムシ類では、広葉樹を好むグループの個体数は針葉樹の量によって違いがみられず、針葉樹と広葉樹の両方を利用できるグループの個体数はむしろ針葉樹が多い林で多くなっていました。

1) 針葉樹の量・・・本研究では25m四方の森林内の胸高断面積合計を指標としました。針葉樹の量が多い林ほど広葉樹の量が少なくなっていました。

本研究は、Journal of Forest Researchにおいて2023年4月にオンライン公開されました。)

写真:調査地の様子
写真:調査地の様子。
(a) 広葉樹天然林。
(b) 広葉樹が多く混交するトドマツ人工林。
(c) 広葉樹の少ないトドマツ人工林。
(d) 広葉樹が多く混交するアカエゾマツ人工林。
(e) 広葉樹の少ないアカエゾマツ人工林。

図:針葉樹の量が森林性オサムシ類の捕獲個体数に及ぼす影響

図:針葉樹の量が森林性オサムシ類の捕獲個体数に及ぼす影響
調査と解析の結果、トドマツ人工林、アカエゾマツ人工林のどちらにおいても、林分内の針葉樹の量が増加し広葉樹が減少すると森林性オサムシ類の総個体数が減少することがわかりました(左)。一方、オサムシ類の個体数の変化を種レベルで解析して平均すると、少量の針葉樹の存在によって個体数が急激に減少することがわかりました(右)。これらの傾向は、特にアカエゾマツ人工林で顕著でしたが、現場の測定では、アカエゾマツが少量混交するだけで光環境が大きく悪化して下層植生量が減少し、土壌含水率が急激に低下する傾向がみられたことから、その影響と推察されました。図中の実線はモデルの推定結果を表し、半透明の丸は実際の観測結果を表します。

※ 写真と図は、出版社から許可を得て、論文中の図を基に作成しました。

 

  • 論文名
    Effects of plantation intensity on longhorn and carabid beetles in conifer plantations mixed with broadleaved trees in northern Japan.(北日本の広葉樹が混交した針葉樹人工林におけるカミキリムシ類・オサムシ類への植栽強度の影響)
  • 著者名(所属)
    入江 雄(北海道大学)、河村 和洋(野生動物研究領域)、山中 聡(北海道支所)、中村 太士(北海道大学)
  • 掲載誌
    Journal of Forest Research、28(4)、Taylor & Francis、2023年4月 DOI:10.1080/13416979.2023.2198111(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 正木 隆
  • 研究担当者
    野生動物研究領域 河村 和洋

お問い合わせ

所属課室:企画部広報普及科

〒305-8687 茨城県つくば市松の里1

Email:QandA@ffpri.affrc.go.jp