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空撮が難しい渓流の水温・湧水地図を熱赤外動画から作成

掲載日:2023年10月20日

川沿いを歩きながら熱赤外カメラで河道を撮影した動画(図1左)とGPS位置情報を使って、水温や湧水の分布地図を高解像度で作成する手法を開発しました。本手法には、空撮が難しかった山地渓流の水温・湧水地図の作成に加え、湧水をその場で確認し、採水できるというメリットがあります。森林に降った雨が川へ流出する仕組み、地下水を通した汚染物質の流入、水温に影響される河川生物の生息など様々な調査への活用が期待できる成果です。

岩盤内や火山灰層など地下深くに浸透した地下水は、下流で湧き出して河川に混合します。湧水は河川水と比べて水温が冬に高く夏に低い(図1中・右)ため、大きな河川では航空機やドローンによる熱画像撮影が湧水探索に使われてきました。しかし、河道が河畔林に覆われ、湧水の面積も小さい山地渓流では空撮は難しいため、本手法を開発しました。

北海道富良野市内の火山岩流域における山地渓流を新たな手法で調査したところ、図2aの高解像度地図を作成できました。必ずしも集水地形となっている谷状の斜面の末端から湧出しているわけでなく、湧水の位置と地表面地形には対応が見られませんでした。したがって、湧水分布を把握する上で地形データからの推定では不十分であり、現地踏査の重要性が示されました。北海道標茶町内の火山灰層を地質とする山地渓流でも、湧水の混合で複雑化している水温分布を高解像度で地図化できました(図2b)。さらに採水もあわせて実施したことで、標茶では地下深くを流れてきたと考えられる水温が特に低い湧水の一部で、肥料由来とみられる硝酸態窒素などの濃度が顕著に高いことがわかり、隣接した流域内の農地から地下水が流入している可能性が示されました。

本研究は、Water Resources Researchにおいて2023年4月に公表されました。)

 

図1:調査の様子および撮影された可視画像と熱画像
図1. 調査の様子(左)および夏に標茶で撮影された可視画像(中)と熱画像(右)。
夏の表面温度は陸地>渓流水>湧水の順に低くなるため、動画解析において画面上の最低温度を抽出し、GPSデータから得られる動画撮影時刻の位置情報と統合することで、水温マップを作成しました。

図2:本手法を用いて作成した水温マップ
図2:富良野(a)および標茶(b)において本手法を用いて作成した水温マップ

 

  • 論文名
    Real-Time Monitoring and Postprocessing of Thermal Infrared Video Images for Sampling and Mapping Groundwater Discharge. (地下水流出の採水およびマッピングのための熱赤外動画のリアルタイムモニタリングと事後解析)
  • 著者名(所属)
    岩﨑 健太(森林災害・被害研究拠点、研究当時:北海道立総合研究機構林業試験場)、福島 慶太郎(福島大学)、長坂 有・石山 信雄(北海道立総合研究機構林業試験場)、境 優(国立環境研究所 福島地域協働研究拠点)、長坂 晶子(北海道立総合研究機構林業試験場)
  • 掲載誌
    Water Resources Research、59(4)、e2022WR033630、2023年4月 DOI:10.1029/2022WR033630(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 玉井 幸治
  • 研究担当者
    森林災害・被害研究拠点 岩﨑 健太

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