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スギの葉が成長期の乾燥に弱いメカニズムを解明

掲載日:2023年10月27日

夏にスギの葉の先端が枯れる乾燥害が発生することがあります。その原因は、水を強い力で吸えるほどまで葉が成熟していないためであることを明らかにしました。今後気候変動による干ばつ被害の増加が予想される中、それを防止するにはまずその原因を明らかにすることが重要です。本研究の成果はスギ乾燥害の防止策を検討するのに役立ちます。

樹木は葉を負圧*にして土壌から水を吸い上げますが、土壌が乾燥すると葉の負圧を大きく下げないと水を吸えなくなります。スギは夏に乾燥害が発生することが知られていますが、この原因が、このメカニズムと関係していると考えました。そこで、高さ20mのタワーを使ってスギの葉の成熟度、蒸散速度、水を吸い上げるための負圧、細胞が壊れる限界負圧(しおれ点)などを1年間測定し、その原因を探りました。その結果、スギの上層の葉は生育が盛んな4月から8月には、葉の細胞壁が未成熟なのに、光合成や蒸散に必要な水を、乾燥した土壌から強い力で吸い上げようとするため、細胞が壊れしおれやすくなることを明らかにしました(図)。

この時期はスギが盛んに光合成や蒸散をして成長する時期と一致しており、乾燥害のリスクを抱えながら、成長維持のため「しおれ点」ぎりぎりの負圧で根を通じて土壌から大量の水を吸い続けていると考えられます。一方、秋以降は針葉の細胞壁が成熟し硬くなるため(写真)、強い負圧に耐えられることも分かりました。

* 負圧:私たちがストローで水を吸うために口の中を負圧にします。樹木も土壌から水を吸い上げるために、葉から蒸散をすることで葉に負の圧力を作り出します。

本研究は、Journal of Forest Researchにおいて2023年5月にオンライン公開されました。)

 

図:葉が水を吸い上げる負圧としおれ点の季節変化の模式図
図:葉が水を吸い上げる負圧としおれ点の季節変化の模式図
下の緑の矢印は葉の伸長期間を表します。この時期は水を吸い上げる負圧としおれ点の値が近く、干ばつなどで土壌の乾燥が起こると葉が枯れやすくなります。一方、秋以降は葉が成熟するため、しおれ点が下がり葉の乾燥害のリスクが低下します。

写真:スギの伸長中の葉
写真:スギの伸長中の葉(5月と7月)は色が淡く柔らかいのに対し、成熟した葉は堅くなり、冬には葉の色が茶色っぽくなることがある(12月)

 

  • 論文名
    Seasonal changes in leaf water relations in regards to leaf drought tolerance in mature Cryptomeria japonica canopy trees. (成熟したスギ林冠葉の葉の乾燥耐性の季節変化)
  • 著者名(所属)
    井上 裕太(森林防災研究領域)、荒木 眞岳(林野庁)、北岡 哲(元森林総合研究所PD)、釣田 竜也(立地環境研究領域)、阪田 匡司(震災復興・放射性物質研究拠点)、齊藤 哲(企画部)、田中 憲蔵(国際農林水産業研究センター)
  • 掲載誌
    Journal of Forest Research, online、2023年5月 DOI:10.1080/13416979.2023.2205719(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 平井 敬三
  • 研究担当者
    企画部 齊藤 哲
    震災復興・放射性物質研究拠点 阪田 匡司

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