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CO2を放出する代謝、光呼吸:裸子植物と被子植物で異なる仕組み

掲載日:2023年10月30日

植物の代謝の1つ「光呼吸1) 」は、光合成とは逆に酸素(O2)を消費し、二酸化炭素(CO2)を生成します。この光呼吸について、裸子植物である針葉樹は、草本植物や広葉樹など被子植物とは異なる仕組みをもち、CO2をより生成しやすいことがわかりました。(図)光呼吸は高温で促進されることが知られており、地球温暖化が植物のCO2吸収量に与える影響を予測するためのモデルの改良につながります。

光呼吸に関与する酵素カタラーゼ(図中のCAT)は、通説では葉の細胞に存在するペルオキソームと呼ばれる細胞小器官2) に局在するとされています。カタラーゼは約490のアミノ酸が連なって構成されています。ポプラなどの被子植物18種、スギなどの針葉樹9種についてカタラーゼのアミノ酸配列を比較したところ、針葉樹のカタラーゼはペルオキソームに局在しにくいことが予測されました。実際、針葉樹であるスギの葉から単離したペルオキソーム中のカタラーゼの活性は非常に小さいこともこの予測を支持しました。さらに、このようなカタラーゼの細胞内での分布の違いが、裸子植物である針葉樹と被子植物とで光呼吸で生成するCO2量に違いをもたらしていることも示唆されました。従来、植物の種類に関係なく光呼吸の仕組みは同じと考えられてきましたが、私たちの研究によって実際は異なることが分かりました。

1) 光呼吸:光合成によるCO2吸収を担う酵素ルビスコはCO2だけではなく、O2とも反応する性質があります。O2と反応すると、CO2を放出する代謝「光呼吸」が始まります。光呼吸には約15種類の酵素が関与していることが知られています。

2) 細胞小器官:細胞内で一定の機能をもった構造体。葉緑体、ペルオキソーム、ミトコンドリアなど。ペルオキシソームは膜に包まれた直径約1マイクロメートルの球体で、光呼吸に関わっていることが知られています。

本研究は、The Plant Journalにおいて2023年5月にオンライン公開されました。)

 

図:裸子植物と被子植物の光呼吸の違い
図:裸子植物である針葉樹(右)と被子植物(左)の光呼吸の違い
ルビスコがO2と反応すると2-ホスホグリコール酸(2-PG)が生成されます。光呼吸は2-PGを3-ホスホグリセリン酸(3-PGA)に変換する役割があり、この過程でCO2が放出されます。被子植物の場合、ペルオキソーム中に存在するグリコール酸オキシダーゼ(GLO)という酵素の働きによって生成した過酸化水素(H2O2)はカタラーゼ(CAT)によって消去されます。一方、針葉樹の場合、ペルオキソームにカタラーゼがほとんどないためH2O2が消去されず、ヒドロキシピルビン酸などの代謝物を分解しCO2が生成されやすいことが示唆されました。

 

  • 論文名
    Different photorespiratory mechanisms in conifer leaves, where peroxisomes have intrinsically low catalase activity(針葉樹の葉はペルオキシソームのカタラーゼ活性が低く、光呼吸のメカニズムが異なる)
  • 著者名(所属)
    宮澤 真一・伊原 徳子(樹木分子遺伝研究領域)、深山 貴文(森林防災研究領域)、田原 恒(樹木分子遺伝研究領域)、飛田 博順(植物生態研究領域)、鈴木 雄二(岩手大学)、西口 満(樹木分子遺伝研究領域)
  • 掲載誌
    The Plant Journal、Wiley、 2023年5月 DOI:10.1111/tpj.16276(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 正木 隆
  • 研究担当者
    樹木分子遺伝研究領域 宮澤 真一

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