所報 No.129 '99-6
[シリーズ]


暮らしの中の木材
第3回 見える年輪,見えない年輪

木材利用部 岡田直紀  

 木を利用するに当たって,その物理性や加工性とともに日本人は常に木目にこだわってきた伝統があります。家の内装,家具や工芸品では木目を生かした加工をするのが普通で,その際に年輪は木目を形づくる重要な要素となります。四季の変化のある日本ではいろいろな樹種が特徴のある年輪を形成し,それらから造られた木製品に日常的に接してきた私達は,樹木が年輪を持つことを当たり前と考えています。ジャワ島に調査に行ったときのこと。現地の知り合いから年輪とはどんなものだと尋ねられました。日本人にとっては当たり前の年輪が,インドネシアでは必ずしもそうではないようです。確かに湿潤熱帯では季節変化がずっと小さいので,私達が目にするような年輪を形成する樹木は極めて少ないのは事実です。しかし,ないわけではありません。ただ,はっきりそれと分かる形で目に見えないにすぎないのです。
 西アフリカのサバンナに生えるKhaya senegalensisという樹があります。アフリカカマホガニーとも呼ばれるこの樹は美しい材を持ち,現地では太鼓の胴などに使われています。この材の炭素同位体比(重さの異なる炭素12と炭素13の比)をかって調べました。サバンナでは植物は雨季にもっぱら成長しますが,利用できる水が多いか少ないかで炭素同位体比の値が変わります。従って,これを調べれば樹木の成長のリズムを捉えられないかと考えたわけです。すると樹皮の側から内方に向かってK.senegalensisの炭素同位体比には明瞭な山と谷がいくつも見られました(図)。最終的な確認にはもう少し時間が必要ですが,山と山の間が一年輪と考えてよさそうです。同じくアフリカの半乾燥地に生えるFaidherbia albidaという樹があります。他の樹と違って雨季に葉を落とし乾季に葉を茂らせる変わった性質を持っています。餌の乏しい乾季にその葉は家畜の飼料となり,涼しい木陰を提供し,窒素固定をするのでその周りに生える草は他よりも青々としています。この樹の炭素同位体を測定してみました。しかし,K.senegalensisのようにきれいな山と谷は見られません。乾季に葉を茂らせるくらいなので,F.albidaは雨のない時期にも何らかの
手段で水を得ているようなのです。雨に関係なく地下水を利用しているとすれば,炭素同位体比を調べても成長のリズムは捉えられそうにありません。しかし,ある論文によると,この樹の材が カルシウムの結晶を含み,その分布の縞が年輪に相当するあります。さっそく試してみると,確かにカルシウムの帯が材の横断面に表れました(写真)。この樹も年輪を持っているようです。年輪とは材の横断面に表れる縞模様だと私たち日本人は理解していますが,必ずしもそうではありません。年輪がないと思われる熱帯の樹でも,成長のリズムが成分の変化となって年輪を刻んでいる場合があるようです。


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