所報 No.129 '99-6
[研究解説2]


新しい歯先処理帯鋸の摩耗特性

木材利用部 村田光司・伊神裕司・藤原勝敏・西村勝美  

1.はじめに
 製材における恒久的な重要テーマの一つとして,鋸断性に優れ,歯先の寿命の長い帯鋸の開発があげられる。鋸断性及び耐摩耗性に優れた帯鋸を製作するには,歯先に硬い材料を付けたり,歯先を硬い材料で被覆したりする方法で歯先を硬化すればよいが,現状では,ステライトを溶着する方法が一般に普及しているに過ぎない。
 近年,製材機械の自動化は著しく進み,いわゆるノーマン帯鋸盤といわれている機械などが開発されている。このような帯鋸盤では,高能率の製材生産を目指し,挽き材がこれまでより速い速材速度で行われるため,帯鋸にかかる負荷が大きくなると思われる。また,一般の帯鋸盤による挽き材でも,生産能率を高める目的で,帯鋸の走行速度や速材速度を高める傾向にある。このため,より鋸断性の優れた帯鋸の開発が強く求められている。
 一方,帯鋸の目立てにおいては,ステライト自動溶着機や湿式帯鋸歯研削盤の開発など技術革新が進んでいる。これに加えて,従来では加工が困難であった材料による帯鋸歯先への加工処理が可能となっている。また,近年粉末高速度工具鋼などの帯鋸歯先用新素材の開発が進んでいる。本研究では,このような新しい歯先処理技術により試作された帯鋸の摩耗特性を検討した。

2.供試帯鋸
 供試した帯鋸は,従来からある普通のばちあさり歯の帯鋸(N鋸),歯先にステライトNo.1を手作業で溶着した帯鋸(S1鋸),ステライトNo.12をステライト自動溶接機で抵抗溶接した帯鋸(S2鋸),粉末高速度工具鋼(SHH51相当)をステライト自動溶接機で抵抗溶接した帯鋸(H鋸),超硬合金(K20)を手作業でろう付けした帯鋸(T鋸)である(鋸身の材質はSKS51)。ステライトは,歯先材料として広く普及している鋳造合金で,高温下における硬度の低下が比較的小さいという特長を持つ。粉末高速度工具鋼は,粉末化した原料を溶解を行わずに一定の形の金属製品や金属材料を作る粉末冶金によって製造され,高速度工具鋼の長所に加えて,不純物の介入が少ない,偏析が少ないなど,材質のばらつきが少ないという利点を持つ。また,超硬合金は,非常に高い硬度を有し,フライス月,バイト,丸鋸の鋸歯などのチップとして広く使われている。
 歯先の研削方法については,N鋸,S1鋸,S2鋸は歯先を乾式で研削仕上げし,H鋸とT鋸は湿式で研削仕上げした。

3.歯先の摩耗とあさり幅減少量
 帯鋸で長時間挽き材を行うと,加工材との接触により帯鋸の歯先が摩耗したり,加工材との衝突により歯先が欠けたりする。ある一定量以上の摩耗や欠けが生じると鋸断性が大きく低下し,歯先の再研削仕上げが必要となり,帯鋸を交換しなければならなくなる。挽き材距離の増加に伴う歯先の状態の変化を,ビデオマイクロスコープにより観察した(図1)。写真1は,非常に硬い材であるマラスを挽き対した場合の1歯当たりの挽き材距離4,968mにおけるN鋸の歯先の状態を示している。歯先が丸く摩耗していることがよく分かり,歯喉面の方が歯背面より摩耗している。このように歯先が摩耗した状態では,挽き材中に過度の切削抵抗によリ鋸身が材に押されて後退する現象が見られた。写真2は,同様にマラスを挽き対した場合の1歯当たりの挽き材距離7,414mにおける丁銀の歯先を示している。歯先に小さな欠けが生じているが,ほとんど摩耗していないことが分かる。図2は,スギを挽き対した場合の1歯当たりの挽き材距離とあさり幅減少量の関係を示している。N鋸では,1歯当たりの挽き材距離が1,000mを超えた辺りからあさり幅減少量が急激に増加し(あさり幅が小さくなる),1歯当たりの挽き材距,9,000m付近で30μmに達した。これに対して,H鋸では,1歯当たりの挽き材距離8,OOOm付近からあさり幅減少量が急に増加し始めているものの,1歯当たりの挽き材距離16,600mでも16μmてあった。また,S1鋸,S2鋸,丁銀では,16,600mでもあさり幅減少量が1Oμm以下と,ほとんどあさり幅は減少しなかった。なかでも,丁銀は,1歯当たりの挽き材距離16,600mにおけるあさり幅減少量が約5μmと,最も優れた耐摩耗性を示した。このように,供試した新しい歯先処理帯鋸が普通の帯鋸と比較して耐摩耗性に優れていることが明らかになった。

4.1歯当たりの挽き材距離と鋸断性
 一般に製材においては,帯鋸の歯先が摩耗すると切れ味が悪くなり,鋸断性に影響を及ぼす。図3は,マラスを挽き対した場合の1歯当たりの挽き材距離と切削力の関係を示している。主分力及び背分力ともH鋸が他の帯鋸より大きかったが,これは実験に使用したH鋸の歯先の研削方法が確立されていないために,歯先が十分に研削仕上げされていなかったことによる。いずれの帯鋸においても,1歯当たりの挽き材距離の増加に伴う主分力の変化の傾向はあまり明白ではないが,N鋸とH鋸では背分力が1歯当たりの挽き材距離の増加に伴い増加する

傾向を示した。特にN鋸では1歯当たりの挽き材距離1,000m付近から急激に増加しており,これはあさり幅の減少量の変化とほぼ一致した。これまでの研究結果によれば,主分力より背分力の方が歯先摩耗を反映するといわれており,本研究でも同様の傾向が見られた。一般には,挽き材距離の増加に伴い歯先の鈍化が進み,切れ味の低下により,挽き材消費電力量,挽きむら,挽き材面表面粗さなどが大きくなると考えられている。しかし,本研究においては,1歯当たりの挽き材距離の増加に伴う挽き材消費電力量,挽きむら,挽き材面表面粗さの変化は明確な増加を示さなかった。レッドメランチ)とマラスのN鋸によるデータは,挽き材面の表面粗さが他の帯鋸と比較して大きかった。このことから,N鋸の歯先が側面研削仕上げされていなかったことによる影響もあるだろうが,比重が中庸以上の樹種に対して,付け歯による歯先の強化が帯鋸による挽き肌の改善に有効であると思われる。

5.まとめ
 ステライト,粉末高速度工具鋼,超硬合金を付け歯した帯鋸では,普通のばちあさり歯の帯鋸と比べて,1歯当たりの挽き材距離の増加に伴うあさり幅減少量,切削力,挽き材消費電力量,挽きむら,挽き材面表面粗さの増加が少なく,摩耗特性が改善されている。特に,超硬合金を付け歯した帯鋸の耐摩耗性は優れており,今後の普及が期待される。


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