所報 No.129 '99-6
[リサーチトピックス]


きのこ栽培における乳化剤の培地添加の検討

生物機能開発部 馬替由美  

背景と目的
 食用きのこ栽培では,きのこを発生させる際に,野菜,果実,花き等の栽培で使用されている植物成長調節剤のようなものが用いられることはない。これは,植物にとっての植物ホルモンに相当する物質が,いまだに食用きのこから分離・同定されていないためである。
 一方,シイタケを栽培する際に,SDSやTritonなどの界面活性剤を培地に添加すると,子実体形成を促進させるという報告が1989年に出された。また,パルプ廃液は種々の食用きのこの菌糸の成育や子実体形成に促進効果があるとされているが,これは,パルプ廃液中に含まれるリグニンスルホン酸の界面活性作用が,菌糸の培地成分の吸収を助長するためと推定されている。このように,界面活性剤は,きのこの子実体形成に寄与するなんらかの生理活性を持っているようである。しかし,食用きのこ栽培に応用し得る界面活性剤について,その相関を結論づける試験は行われていなかった。そこで,食用きのこの培地に添加しても安全な界面活性剤について,その効果を検討してみることにした。
成果
 現在,国内で許可されている食品用界面活性剤,すなわち乳化剤は7種類ある。その中で,最も広いHLB値(HydrophilicLipophHicBa1ance,数字が小さい方がより親油性)を持つものが,ショ糖脂肪酸エステルであり,ショ糖に脂肪酸がエステル結合した物質である。ショ糖脂肪酸エステルは,すでに食品に広く使用されている乳化剤であり,生体内では最終的にショ糖と脂肪酸に分解されるので,安全である。
 そこで,最初は,三つの異なるHLB値(1,7,15)を持つショ糖ステアリン酸エステルを用いて,シャーレ内でヒラタケの子実体が形成されるかを検討した。その結果,構成する糖と脂肪酸は同じであっても,HLB値の違いによって子実体形成能が異なることが明らかになった。菌糸を凝集させ,子実体のでき始めである原基と呼ばれる組織を形成させる効果が最も高かったのがHLB値1を持つショ糖ステアリン酸エステルであり,シャーレ内で子実体を形成させたのはHLB値7のもの(SE-2とする)であった。SE-2を添加したおが粉・米ぬか培地を用いたヒラタケの試験管栽培の結果を示す(写真1)。SE-2添加培地では,菌糸の培地内への伸長は阻害されるものの,発生しているの子実体の数は無添加培地より多くなっている。
脂肪酸部分がステアリン酸ではなくパルミチン酸のショ糖脂肪酸エステルの菌糸伸長阻害活性を見ると,同じHLB値を持っていても,パルミチン酸エステルの方がステアリン酸エステルより阻害効果が高いことが明らかになった(表1)。ここでは,菌糸伸長に対する影響を調べただけだが,糖や脂肪酸の組成を変化させることによって,子実体形成活性も変わってくることが予想される。なお,SE-2は,ヒラタケ以外にはシイタケで,子実体の大きさを揃える効果も見られた。エノキダケやナメコでは,特に顕著な効果は示さなかった。 
 こうして,乳化剤のきのこに対するユニークな生理活性を明らかにすることができたが,その後の研究で,食品添加物にこだわらずに,種々の界面活性剤についてヒ)ラタケの子実体形成活性を検討したところ,現在までに活性力溺められたものは,すべて構成成分として糖を持っていることが明らかになっている。写真1。試験管栽培によるヒラタケの発生試験ショ糖脂肪酸エステルを無添加(左)または2%添加(右)したおが粉・米ぬか培地でヒラタケを生育させ,子実体を発生させた。

表1。ショ糖脂肪酸エステルがヒラタケ菌糸の伸長に及ぼす影響

菌糸伸長速度(mm/day)
無添加 5.6土0.07
S5 4.8±0.10
S7 4.7土0.11
S9 4.4土0.06
S11 4.1±0.13
S15 3,5土0.07
P1 4.7±0.08
P11 3.5±0.31
P15 3.0±0.l1

各ショ糖脂肪酸エステルを0.5%添加したおが粉培地
でヒラタケ菌糸が伸長する速度を測定した。頭文字S,
Pは,それぞれショ糖ステアリン酸エステル,ショ糖パ
ルミチン酸エステル。数字はHLB値を表す。


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