所報 No.135 '99-12
[研究解説2]


 利用者の多様性を考慮した森林レクリェーション計画手法の開発

北海道支所 八巻一成 
 

1.はじめに
 全国各地の山岳観光地では,観光道路やロープウェーが建設されている。それによって,徒歩では行くことが困難な高山地帯を手軽に訪れることができる。美しい自然を多くの人が楽しめる時代なのである。しかし,それは一方で原生的な雰囲気や静けさを登山者から奪う結果ともなった。
 自然景観の優れた山岳,森林地域におけるレクリエーション利用といっても,一言では言い表せないほど多様である。原生的な自然や静寂を求めて登山をしたい人もいるだろうし,美しい自然の中で手軽にドライブやピクニックなどを楽しみたい人もいるだろう。利用者の二一ズが異なれば,それに応じて利用者が求めるレクリエーション空間の状況も異なる。レクリエーション地域の整備は,利用者の二一ズが多様であることを念頭に置いて進めなければならないのである。利用者の二一ズが多様であるならば,利便性や快適性を追求したレクリエーション空間と原生的な状態を色濃く残したレクリエーション空間の両方をバランスよく配置していくことが必要であろう。本研究は,利用者二一ズの多様性を考慮した森林レクリエーション計画手法の確立を目指して,ROS
(Recreation Opportunity Spectrum)と呼はれる計画概念を用いた地域区分手法を開発し,大雪山地域において連用を試みた。

2.ROSの考え方
 ROSは米国で開発されたレクリエーション計画概念である。本概念は,多目的利用を前提とした土地利用において,レクリエーション利用とその他の利用との両立を図りつつ,利用者のレクリエーション・二一ズに応じたレクリエーション空間を提供することを目的としている。ここでROSの考え方について,簡単に説明したい。登山,キャンプ,ドライブ,自然観察など,レクリエーション活動のタイプは多様である。と同時に,利用者が求めようとする体験の内容も多様である。例えば,手つかずの自然を体験したい利用者は,アクセスの困難な奥山であっても原生的な自然を求めて登山に出かけるであろう。一方,手軽に美しい風景に接したい利用者には,観光道路や利便施設が整備されドライブやピクニックができる場所が必要である。つまり,利用者が求めるレクリエーション体験の内容とレクリエーション活動,レクリエーション空間の状況は密接に関連し合っているのである。利用者が求めるレクリエーション体験は多様であるから,この多様性を考慮してレクリエーション地域の整備を行う必要がある。

(右側上へ) 
 レクリエーション空間は物的環境,社会的環境,管理水準の3種類の要素の組み合わせによって構成される(図1)。物的環境にはアクセスの状況,人工物の有無や騒音,社会的環境には混雑度や利用密度,レクリエーション活動のタイプ,管理水準には管理者による規制や規則などがそれぞれ含まれる。レクリエーション空間におけるこれらの要素の組み合わせは,利用者が求めるレクリエーション体験に応じて決まってくるため,それぞれのレクリエーション体験にふさわしい物的環境,社会的環境,管理水準の組み合わせを提供するのがレクリエーション計画の目標となる。

 ROSでは以上のようなレクリエーション空間の状況の違いをもとに,レクリエーション空間をいくつかのクラスに分類し,それをもとにゾーニングを行う。ゾーニングにより,どこにどのような特徴を持つレクリエーション空間が存在するかが一目で分かるとともに,区域ごとの管理方針が立てやすくなる。



レクリエーション空間は,物的環境,社会的環境,管理水準の3要素によリ構成され,自然的要素,人為的要素の多少 により多様な環境が作り出される。利用者が求めるレクリエーション空間は,利用者が求めるレクリエーション体験に応じて決まる。
図1. ROSにおけるレクリエーション空間の概念

 (左側下へ)


3.ROSの大雪山地域への適用
 ROS概念を適用して,大雪山地域北部の登山道を対象に地域区分を行った。本研究では,アンケート調査によりレクリエーション空間に対する利用者の好みを明らかにし,それをもとに地域区分を行った。上で述べたように,レクリエーション空間は三つの要素から構成されるが,各要素の評価指標となるいくつかの項目を用意し,その状況について3または5段階で示したものの中から最も好ましいと思うものを被験者に一つ選んでもらった。用いた項目は,「歩道」,「ベンチ・テーブル」,「道標」,「自然解説板」,「注意標識」,「立入禁止のロープ」,「山小屋」,「歩道で人と出会う頻度」,「登山口から目的地までの歩行時間」の9項目である。分析の対象とした被験者数は518である。
 以下の分析に当たっては,多変量解析法である主成分分析,判別分析,クラスター分折を組み合わせたアルゴリズムを作成し実施した。まず,アンケート結果を用いて利用者を4グループに分類した(図2)。分析の結果,施設整備は好まず人の少なさやアクセスの困難さといった登山的要素を好む「原生自然派」,原生自然派ほどではないものの登山的要素を好む「自然派」,「注意標識」,「立入禁止のロープ」といった高山植物等を保護するための規制物の設置を最も強く好む「観賞派」,4グループ中で行きやすさや施設の利便性を一番強く求める「観光派」に分けられた。
 次に,上の4分類をもとに地域区分を行った。まず対象地域を区間(登山道)と結節点(山頂,拠点地区等)に分け,上の9項目による各区域の評価を現地調査により行い,土地データの作成を行う。続いて作成した土地データから,各区域と利用者4グループとの類似度を計算し地域を区分した。結果は図3の通りである。「観光派」に該当する区域は対象地域の北部にかけていくつか見られる。こヒは施弾整備が進められた地域であり,人為的要索が多く「観光派」が好むような性格を持つ空間となっている。一方,「原生自然派」に該当する地域は南部にかけて多く見られる。ここは施設整備があまりされておらず,アクセスが困難であり,「原生自然派」が好むような自然的要素の多い空間となっている。

4.おわりに
 ROSを用いた地域区分手法により,利用者のレクリェーション空間に対する二一スをもとにした現況把握が可能となった。今回の分析結果は,利用者二一ズの多様性を考慮した森林レクリエーション計画の策定に役立てることができる。地域区分結果を参考にゾーニング計画を行えば,レクリエーション空間としての管理方針をゾーンごとに明確にすることができるようになる。
 これまでのわが国の森林レクリエーション計画には,レクリエーション体験の多様性という視点が乏しかった。整備によって自然らしさが失われ,結果的に体験の質が損なわれてしまうという事態も数多く起きた。多様性のあるレクリエーション空間の整備が,これからは求められてくるだろう




図2. 分析の流れ





図3.ROSにおける利用地域の区分結果









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