所報 No.139 '2000-4
[シリーズ]


暮らしの中の木材
第13回 バット

木材利用部 加藤 英雄  

  現在の野球に繋がる最初のルールは,1845年にアメリカで作られました。この頃のバットは,現在のような丸い棒でなくてもよく,また必ずしも木製である必要もありませんでした。その後,バットの形状や長さが決められ,1874年には,バット全体が木製でなければならないという規則ができました。バットの原木は,トネリコ属のアオダモ,ヤチダモ,トネリコ,ホワイトアッシュです。日本のプロ野球では,アオダモのバットが圧倒的に多く使われています。タモの語源は,この材が極めて粘り強く,非常に大きくたわむことができるので,経験的に「たわむ木」と呼ばれ,そこから転じてタモになったと考えられています。また,アオダモの場合,この木の枝を切って水につけておくと,青い蛍光色を呈することから,この名前がつけられました。
  さて,バットでボールを打つとき,どのくらいの力が生じているのでしょう。バットスイング120km/h,ホールスピード100km/hで,145gのボールを930gのバットの真芯で打ったとしたら,バットにはおよそ3トンの力が生じます。実際の試合では,これより速い速度のボールを打つこともありますから,さらに大きな力が生じます。このように大きな力が生じているにもかかわらず,めったにバットが折れることはありません。しかし,時には試合中にバットが折れることがあります。これは,バットが弱かったからなのか,それとも当たり所が悪かったからなのでしょうか。
  バットが折れる原因には,バットの材質や木取り,あるいは,選手の打撃技術が考えられます。プロ野球における折損バットの調査報告によれば,調査期間中379試合で,546本のバットが折損し,このうち132本は分離した折損バット,299本は板目打ちによる折損バットでした。
  分離した折損バットの場合,年輪幅が非常に狭く密度の小さいぬか目材や何らかの原因で心材が着色した偏心材で作られたバットであったこと,あるいは,過度の目切れがバットにあったためで,バットの材質や木取りが主な原因として考えられます。ぬか目材,偏心材,過度の目切れは,いずれも正常な材と比べて衝撃曲げ吸収エネルギーが小さいため,バットが折損した際分離する原因になります。
  板目打ちによる折損バットの場合,選手の打撃技術が主な原因として考えられます。木製バットの打ち方には,柾目面で打つ柾目打ちと板目面で打つ板目打ちの2通りがありますが,バットの真芯でボールを打つのであれば,どちらの打ち方でもバットが折れることはありません。しかし,選手が常に真芯でボールを打つとは限りません。物体が衝突するときの反発性を柾目面と板目面とで比較すると,板目面の方が柾目面よりも反発性が小さい傾向にあります。そのため,バットの真芯をはずれてボールを板目打ちしたとき,バットはとても折れやすい状態となります。
  木製バットには,必ずメーカーのマークが入っています。これは,メーカーがバットの好きなところに勝手に入れているのではなく,必ずバットの板目面に入れてあります。つまり,バットのマークは,メーカーの表示するとともに「バットを反発性の大きい柾目打ちで使って下さい」というサインになっています。その結果,選手はバットのマークとグリップを確認することによって,柾目打ちができるようになります。このことは,選手にとって大切なバットを折ることなく,打撃技術を向上させることに繋がるといえます。

図.木製バットの打ち方


[巻頭言][シリーズ][研究解説]
[所報トップページへ]