所報 No.149 2001-2
[研究解説]


 火山性荒廃地の植生回復に与える環境要因

北海道支所 白井 知樹  

1.はじめに
  火山噴火は斜面崩壊などと比較して大規模な荒廃地を形成する。このような荒廃地は火山性荒廃地と呼ばれ,斜面上に軽石・火山灰などの噴出物が不安定な状態で堆積しているため。降雨や融雪時に土石流や泥流が発生し,下流域に人的・物的被害を及ぼすことがある。従って火山性荒廃地では,速やかに地表を安定させる必要があり,従来より斜面の安定を図る土木工法・植生工法が研究されてきた。本研究は火山性荒廃地に自然回復した木本植生を対象とし,植生工法を確立することを目的とした。
  有珠山では1977年8月の第一期噴火(大噴火4回を含む一連の軽石噴火の総称),同年11月〜翌年10月の第二期噴火(約140回に及ぶ一連の水蒸気爆発〜マグマ水蒸気爆発の総称)により既存の森林植生が破壊され,火山性荒廃地が形成された。噴火直後の調査では,噴出物厚が薄い区域を中心に植生が回復する傾向が認められたが(豊岡ら。1980),噴火終了16年後の植生回復状況を対象にした研究(白井ら,1997)では木本植生の回復は必ずしも噴出物厚の薄い区域に集中していないことが明らかになった。
  そこで本研究では,「軽石で構成される『第一期噴出物』と細粒物質で構成される『第二期噴出物』の違いが木本植生回復に異なる影響を及ぼした」とする仮説を立て,噴出物の種類などの環境要因と木本植生回復との関係を地理情報システム(GIS)を用いて検証することを試みた。

2.研究の方法
  調査対象地は1977-78年噴火で既存の植生が破壊され,ほぼ全域が荒廃地となった外輪山内側のうち,治山工施工地と地熱活動区域を除いた158haである。過去の空中写真判読,降灰厚分布図,有珠山地形図から「植生区分図」「第一期噴出物厚分布図」「第二期噴出物厚分布図」「斜面傾斜区分図」を作成した。これらの各図を,GIS内で重ね合わせ,10×10mメッシュを単位とした各環境要因の分布図を作成した。このメッシュ図毎に,1978年〜1993年の15年間に木本植生が回復した面積の割合を木本植生回復率として算出した。

3.研究の成果
  調査区内では1977,78年の噴火によって第二期噴出物が第一期噴出物を完全に覆っている。一方で木本植生回復はその大半が風散布種子の地表定着により進行したものである。このことから上層である第二期噴出物層は噴火以降の木本植生回復に及ぼす影響が大きいと考えられる。このため,まず総噴出物厚(第一期噴出物厚+第二期噴出物厚)と上層の第二期噴出物厚のどちらが木本植生回復との間で明瞭な関係を持つかを検討した。図1に総噴出物厚(a)と第二期噴出物厚(b)のそれぞれについて現在の木本植生・草本植生・裸地の占有面積,及び木本植生回復率を示す。
  図1aでは総噴出物厚30〜60cmの区域で59%と最大の木本植生回復率を示した。ただし,木本植生は必ずしも噴出物厚の薄い区域に集中しているわけではなく,噴出物厚が150cm以上の区域でも21%の回復率を示した。これに対し,図1bでは第二期噴出物厚0〜30cmの区域に木本植生の回復率が高い部分が集中し32%の回復率を示した。一方,噴出物厚30cm以上の区域では6%以下の回復率となり,木本植生の回復はほとんど認められなかった。この結果から,木本植生回復は総噴出物の厚さというよりは,上層部分を占める第二期噴出物の厚さの影響を強く受けており,特に第二期噴出物厚30cm以上の区域では木本植生の回復が強く抑制されていることが明らかになった。
  次に第二期噴出物の影響が弱い場合の,他の環境要因と木本植生回復との関係を調べた。第二期噴出物厚30cm未満の区域(104ha)を対象とし,他の環境要因である第一期噴出物厚及び斜面傾斜と木本植生回復との関係を検討した。
  図2に第一期噴出物厚(a),斜面傾斜(b)別に植生等が占める面積と木本植生回復率を示した。図2aでは第一期噴出物厚が150cm以上の区域で67%と木本植生の回復が顕著であったが,噴出物厚が0〜150cmの区域では木本植生の回復率は20〜43%の範囲を増減し噴出物厚の違いによる木本植生回復率に大きな差は見られなかった。図2bでは。木本植生の回復率は斜面傾斜0〜10°の区域で最大の64%を示した。一方,10°以上の区域では斜面が急峻化するに従って,回復率は徐々に低下した。この結果から。少なくとも第一期噴出物厚は木本植生回復を抑制していないと判断できる。また。斜面傾斜に関しては,傾斜が緩やかな区域で木本植生回復が進む傾向が明らかになった。
  以上より,細粒物質で構成される第二期噴出物が30cm以上の厚さで堆積した区域で,噴火終了後も長期間にわたり木本植生回復が抑制されていることが明らかになった。また,軽石で構成される第一期噴出物の厚さは木本植生回復を抑制していないことが明らかになった。
  一方,第二期噴出物厚が30cm未満で,その影響が弱い区域では,斜面が緩傾斜であるほど木本植生回復が促進されていた。
  これらの結果から「軽石で構成される『第一期噴出物』と細粒物質で構成される『第二期噴出物』の違いが木本植生回復に異なる影響を及ぼした」とする仮説は成立すると考えられた。
  1999年に行った現地調査では,第二期噴出物厚30cm以上に該当する区域内にもかかわらず,1978年の噴火終了以降の土砂移動によって形成された堆積地では例外的に木本植生が回復している様子が観察されている。このような堆積地は第一期噴出物と第二期噴出物が混ざり合った2次堆積物が地表を覆っている場所である。このことから。第二期噴出物厚が30cm以上の区域でも地表が性質の異なる堆積物に置き換わった場合,木本植生が回復する可能性があると考えられる。

4.おわりに
  今後は第二期噴出物がどのように木本植生回復を抑制しているかを具体的に解明するため,噴出物の水分特性,物理特性等を分析する必要がある。

引用文献
白川知樹・坂木知己・寺嶋智巳・中井裕一郎・北村兼三(1997)有珠山の植生回復と地熱分布の関係,日林北支論,45:178〜181
豊岡 洪・石塚森吉・佐藤 明・林 敬太(1980)有珠山噴火の林床植生への影響,北方林業,32,12〜16

 
写真1. 軽石により構成
される第一期噴出物

  
写真2. 細粒物質により
構成される第二期噴出物


写真3. 
第一期噴出物上での植生回復
(写真1と同一の地点)

写真4. 第二期噴出物上での植生回復
(写真2と同一の地点)



図1. 総噴出物厚(a)・第二期噴出物厚(b)と木本(b)
植生回復(拡大図:24KB)


図2. 第二期噴出物厚30cm未満区域における環境要因
と木本植生回復(拡大図:26KB)

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