森林総合研究所 所報 bS1・2004-8
 
「森林の多面的機能」
解説シリーズ

第24回   快適生活環境形成機能 −防音効果−
気象環境研究領域長  河合 英二
 
  都会の喧噪の中を通って森林に入ると、真夏でもひんやりとして静かな環境に誰でもホットした気持ちになります。この静けさは森林が騒音源から距離を置くのと同時に森林が騒音を減衰させるからです。音は途中に障害物が無くても自然に減衰します。森林の防音効果は自然減衰に加えて音の障害物として減衰させる効果を言います。

森林による防音効果
  森林の防音効果は低周波数で小さく、1,000〜3,000Hz以上の高周波数ほど高くなる傾向があります。
  林分構造は森林の防音効果に大きな影響を及ぼします。本数密度が高く、枝下高が低い林分ほど幹、枝葉による防音効果も大きくなります。落葉樹は落葉期に防音効果が低下する調査例から、防音効果に葉の貢献度がかなり高いことがわかります。林床の草本や柔らかい表土も、防音効果の一部を分担しています。音は林帯の上方を迂回して地上に降りてくるので、樹高が高いほど防音効果上は望ましいのですが、多くの調査例では樹高は防音効果にそれほど大きな影響を与えていません。これは、樹高の高い自然の森林は本数密度が低く、枝下高が高くなることがマイナスとして影響していると考えられます。
  森林による音の減衰量は普通の森林の場合、自然減衰を除いて、林内距離30mで4〜8dB(デシベル)程度で、防音上理想的な構造の森林の場合には10dB以上の減衰が期待できます。10dBの低下は、騒音が半減したと感じられる程度の大きさです。理想的な構造の森林の場合、距離による自然減衰が加わって、25dB以上の減衰が期待できます。

自然界のゆらぎと快感
  ある音を聞いて感じる快・不快は個人の感性に左右されますが、音波をスペクトル解析という方法で分析した結果、ある程度まで一般化することが可能になりました。これは「1/fゆらぎ」をもつ現象が人間の生体リズムに合致し、快感と感じる傾向があるという考えです。数学的に表現すると音波のパワースペクトルが周波数に反比例している音が快感をもたらす1/fゆらぎ音です。これに対し、あらゆる周波数成分を均等に有するパワースペクトルの音を白色雑音といい、放送終了後のテレビの「ザー」という音がこれに近似しています。
  自然界のリズムは「1/fゆらぎ」に近く、規則正しさと不規則さがちょうどよいバランスで調和し、これが人に心地よさを与えているという考えです。そよ風、小川のせせらぎ音など、自然界には様々な「1/fゆらぎ」がひそんでいます。

森林の役割
  森林は音を減衰させると同時に、風にそよぐ木々の揺れ、せせらぎ音、小烏のさえずりなど自然のゆらぎ音で不快な騒音を快適な音に交換するマスキングの働きを持っています。また、緑のカーテンによって視覚的にも気持ちを落ち着かせる効果もあります。生活に潤いや快適感を付与できるということは森林の優れた働きです。このように音の減衰量だけではなく、快適感との関係を調べると森林の防音効果は更に期待できるかもしれません。
  既存の市街地では防音目的だけに森林が造成された例はありませんが、新東京国際空港では、防音堤・防音林の整備が行なわれました(写真)。



写真 防音堤に植栽した森林
(成田国際空港株式会社提供)


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