森林総合研究所 所報 bS1・2004-8
 
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研究プロジェクト「機能性を強化したきのこの成分育種及び栽培技術の開発」の紹介
きのこ・微生物研究領域長    石原 光朗
 
  きのこは食物繊維を多く含み、低カロリーで生活習慣病の改善など機能性成分を含有しており、高齢化社会を迎えたわが国にとって国民の健康維持に欠かせぬ食品の一つです。きのこ生産は、国内林業が停滞する中で、中山間地の農林家の複合経営上大きな位置を占めており(平成14年のきのこ類は林業粗生産額の41%)、これが間接的に里山林の整備、森林の公益的機能の維持に重要な役割を果たしています。しかし、近年、大規模生産企業の参入や中国産のシイタケの輸入増加(乾しシイタケの自給率はこの10年で約20ポイント低下し、平成15年で31%)による供給過剰で市場価格の低迷が続き、中山間地域きのこ生産者の経営を脅かしています。原材料の経費削減、収穫の効率化などの生産者の経営努力によっても収益が上がらず、生産意欲を萎えさせており、中山間地のきのこ産業の振興には公的機関による研究支援がこれまで以上に必要な状況となっています。

  中山間地できのこ栽培の存続、安定生産を維持するためには、低価格の外国産や大手企業産との差別化を図り、消費者に納得してもらえる安全で良質な国産きのこを安定供給できる地産地消の体制づくりが必要です。きのこには食物繊維による整腸作用が期待できるだけでなく、種類によって血圧降下、血清コレステロール低下、抗血栓、抗腫瘍、骨粗鬆症や痴呆症の防止などの機能性成分が含まれています。これらの機能性を強化したきのこを摂取することは生活習慣病、がんの予防になり、医療費の削減につながると考えられます。また乾しシイタケには特有のニオイがありますが、ニオイ成分量の制御可能な栽培技術を開発し、消費者の幅広い嗜好性に応えることによって、自給率の向上に結びつくと考えられます。
  本研究は森林総合研究所の交付金プロジェクトTとして、公立試験研究機関や大学との連携の下に、きのこ特有の機能性成分を高める成分育種及び栽培技術の開発、及び乾しシイタケのニオイ成分量を制御する栽培技術の開発を平成16年から3年間の予定で実施します。研究対象のきのこ及びその成分は、機能性についてはブナシメジ、ハタケシメジのアンジオテンシン変換酵素阻害活性、ヤマブシタケ(写真)のヘリセノン類、マンネンタケのエストロゲン様成分、シイタケのレンチナンであり、また乾しシイタケの嗜好性についてはレンチオニンなどのニオイ成分です。アンジオテンシン変換酵素は生理的に不活性のペプチドであるアンジオテンシンTから血圧上昇活性を示すアンジオテンシンUを生成することから、酵素阻害剤は高血圧症の降圧剤として利用されています。ヘリセノン類は神経生長因子の合成誘導促進物質であると報告されており、脳神経細胞の増殖促進作用からアルツハイマー症の改善効果が期待されています。エストロゲン様成分には骨粗鬆症の予防効果が、またレンチナンには免疫機能の賦活増強による抗腫瘍活性が認められています。

  きのこ特有の機能性成分を高含有する育種素材の成分育種や機能性成分含量を高める栽培技術を開発し、公立試験研究機関、林業専門技術員、林業改良指導員等を通じて、中山間地のきのこ栽培品種を健康増進機能を持つ、高付加価値の品種へとシフトを進め、国際競争力を有する産業構造へ転換を図っていくことを究極の目的としています。


写真 ヤマブシタケ


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